天才が馬鹿になった日 後編 ページ4
一体どのくらいの時間を歩き続けたのだろう…
ただただ白い地面を見つめながら
歩いていた私の頭に突如、
ガタンと何か固い物がぶつかった。
「はぁはぁ…」
ぼんやりとしながら見上げてみると、
視界一面に木製の壁がある。
(…家…なのか?
でも、それにしては…)
あまりにも小さくボロボロで…
まるで掘立て小屋だ。
しかしこんな場所でも
誰かがいるかもしれない、
その希望を捨てる事は出来ず
私は意を決してその壁を
残り少ない力を振り絞り叩いた。
「…、」
(駄目か…)
私の今出せる限りの誠心誠意のノックに
返って来たのは、無慈悲な程に冷たい風。
「っ、」
ギッと拳を握り歯を食いしばる。
(どうして私がこんな目に…)
そんな事を思い目頭が熱くなった気がしたが、
あまりの寒さに今は
涙すら出てくる気配がない。
しかし、そこでだ…
「違う…」
ある事に私は気づいた。
「…そ、うだよ…私は…
いつも一人で、
全部、頑張って来たんじゃないか…」
誰かに助けを求める、
その甘い考え自体が間違っており、
私自身の気の弱さを肯定してしまっていた。
そしてそんな私は、
心のどこかでいつも自分自身を
否定し続けていたのだ。
こんな絶望的な状況の中で、
私は心に確固たる意志を掲げる。
「…ただ頑張るだけだろ?
今回も…同じ事だ。」
ズルズルと流れ続けていた鼻水は
絶え間なく襲い来る吹雪によって
凍りつきまるで氷柱、
私の手足の指は凍傷で赤黒く変色し
見るも無惨な姿になっていた。
そんな手足を動かして
あまりのボロさに軋む扉を
私はゆっくりと開けた。
「自分で…
私だけで…やってやる…」
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作者名:おぼろん | 作成日時:2021年5月4日 16時