百二五 ページ25
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「帰蝶様、」
「…誰だ?」
呼ばれているのに、全く声の主が分からない。聞いたことがある気がする、というかどこから声がするんだ。すると、静かにと言われてしまった。
「お久しぶりです、花果でございます。里に戻り修行していました。何も申し上げず、すみません」
めちゃくちゃ修行してたんだな。結構年月過ぎてる。ひそひそと小さな声で返事を返した。
「大丈夫だ」
「ありがとうございます。
帰蝶様、今夜ここを脱出する気はありますか。忍の里にならきっと助けを求められます、そう簡単には見つかりません」
それは魅力的な持ち掛けだ。いつもの俺なら簡単に乗ってしまうと思う。だが、俺は信長を助けて貰った。そして、この身を差し出した。信長はそんなことは知らないだろうけど、俺は恩人にそんな去り方はしたくない。
「…すまないが、それは出来ない」
「分かりました。ではもう一つ、お伝えしておきたいことがあります」
花果は潔く引いた。誰に指図された訳では無いだろう。ただ忠実に俺の忍としてそう提案してくれたのだ。
自分に伝えること、か。何か織田に動きでもあったのだろうか。
「信長様は帰蝶様とは離縁が済んだと広められているようです」
「…信長がか、本当にそうしたんだな」
「帰蝶様、」
「はは、分かってるから。大丈夫だ」
信長がこうすることは分かっていた。自分は何も言っていない。自分は居ないから無言の了解ということになってしまうのだ。分かってる。
分かってる。なのに、分かってるのに。
「うぅ…、ぁぐっ…うあぁぁ信長っ…」
庇うことなんてしなくてもいいから、ただ何か遠い今繋ぎ止める関係を無くしたくなかった。
独りは嫌だ。
目から零れ落ちる水は止まらず、子供のように泣き喚いた。
いつの間にか、花果は居なくなったようだった。
そして、ずっとその間を聞いていた者がいた。
「殿…、何故そのような決断をされたのですか…」
明智光秀である。
織田信長は明智光秀に帰還を命じた。
だが、明智光秀は命に背き、甲斐を出なかった。
それ以降、暫くAは誰とも言葉を交わさず、塞ぎ込んでしまった。花果は後悔した、信長の命令で主に伝えたことを。
「帰蝶様」
「…」
ずっと、上の空という様子で魂が抜けたように動かず黙って戸の外に見える空を見つめているのだ。明智光秀は見ていて苦しくて仕方がなかった。
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愛之助(プロフ) - そうです《自主規制》のひとりごとです^^ (5月21日 19時) (レス) @page39 id: 71bd857e36 (このIDを非表示/違反報告)
カケオレ - ま、まさか……薬〇のひとりごと……!? (5月21日 19時) (レス) @page39 id: 1b32a494c8 (このIDを非表示/違反報告)
愛之助(プロフ) - 玲さん» 作品の目次ページにボタンとCSSて書いてあるとこでオフにして貰えたらノーマルになるのでお願いします〜🙏💦 (2022年7月10日 21時) (レス) id: 71bd857e36 (このIDを非表示/違反報告)
玲 - すいません。とっても面白いんですけど背景のせいで文字が見にくいです。 (2022年7月10日 20時) (レス) @page39 id: be882aa841 (このIDを非表示/違反報告)
なーーみ(プロフ) - 愛之助さん» もう本当に感謝しかないです( ; ; ) ありがとうございます。 これからも頑張ってください。応援してます!! (2021年5月17日 22時) (レス) id: af11d71d69 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:大手裏剣 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/oh19years/
作成日時:2019年9月29日 1時