百二四 ページ24
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「兄上、失礼します」
信長の妹、市は目を覚ました信長を訪ねた。信長は、まだ癒えぬ大きな傷を負いながらも国主として滞っていた執務を片していた。市には信長が命を削っているようにしか見えなかった。帰蝶様が戻られた、と聞いた。少しだけでも楽になるかと思っていたのに。
もっと、無理をするようになってしまった。
「市か」
「兄上、帰蝶様はいらっしゃらないのですか」
帰蝶、と聞くと信長がぎり、と歯ぎしりをした。墨が跳ねた。硯が畳の上に落ちる。着物にべっとりと付いた墨。兄上に目を向けると、恐ろしく睨まれた。
「ひっ…」
「不愉快だ。彼奴の名を口にするな、奴はもう織田の人間ではない」
信長は立ち上がると、市を押し退け部屋から出ていった。市はそれは恐ろしかったが、胸が苦しくて仕方がなかった。傷を抑えて歩く姿はどうしても淋しく小さく見えるのだ。
「帰蝶様…帰ってきてよ…兄上が壊れちゃう」
「はっくすん!」
「変わったくしゃみですね。寒いのであれば、戸を閉めておこう」
監視役の真田信之は立ち上がろうとして、Aは手で大丈夫だと示した。
「きっと誰かが俺の噂をしているだけだ」
「私にはその話し方で大丈夫なのか…」
「もう分かっているし、他に者は居ないようだしな。そうだ、聞きたことがあった。白洲…さん、は」
「白洲で構いません」
本当に真田信之もとい白洲司は表情の変化に乏しい。怒っているのではないかと気まずくなるくらいだ。とは言え、信長はいつでも怒っているような顔だったが。(失礼)
「し、…白洲は、現代で何をしていたんだ」
「前に申した桐島 冴と同僚でドクターヘリの医者をしていました。冴の方がここに来るのは遅かったが、他にも数人ここに飛ばされた」
「医者、…だから信長の応急処置が出来たのか…?」
白洲は頷いた。そして、彼もAの職は何だったのかと訊ねた。
「俺は中学校教諭をしていたんだ。ちょうどというかなんというか社会科教諭でもあって…ここの理解は早かった。
徳川にいる、俺の教え子も一人ここに飛ばされた」
この現象は神やなんだではなく、科学現象か何かなのだろうか。一人や二人の話ではなく、数十人単位でここに飛ばされた人間がいる。
「俺達は何故この時代に飛ばされているんだ」
「それは私にも知りえないな」
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愛之助(プロフ) - そうです《自主規制》のひとりごとです^^ (5月21日 19時) (レス) @page39 id: 71bd857e36 (このIDを非表示/違反報告)
カケオレ - ま、まさか……薬〇のひとりごと……!? (5月21日 19時) (レス) @page39 id: 1b32a494c8 (このIDを非表示/違反報告)
愛之助(プロフ) - 玲さん» 作品の目次ページにボタンとCSSて書いてあるとこでオフにして貰えたらノーマルになるのでお願いします〜🙏💦 (2022年7月10日 21時) (レス) id: 71bd857e36 (このIDを非表示/違反報告)
玲 - すいません。とっても面白いんですけど背景のせいで文字が見にくいです。 (2022年7月10日 20時) (レス) @page39 id: be882aa841 (このIDを非表示/違反報告)
なーーみ(プロフ) - 愛之助さん» もう本当に感謝しかないです( ; ; ) ありがとうございます。 これからも頑張ってください。応援してます!! (2021年5月17日 22時) (レス) id: af11d71d69 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:大手裏剣 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/oh19years/
作成日時:2019年9月29日 1時