▽ ページ46
*
劇場での舞台終わり楽屋に戻ると
相方がスマホを持ったまま固まっていた。
「どうしてん？何か、怖いで」
「......」
「この後メシ行く？」
「......」
「おい、無視すんなや」
「河井さん！」
「おわっ、なに急に」
「Aさんに新しいお店紹介してくれたの
感謝してます」
「は？いきなりやな。
お前が、あのまま居酒屋においとくの
嫌やっていうからそうしたけど。
結構芸人に絡まれてたしな」
「でもあのお店にいる店長が
ラスボスのような気がします」
「香住さんはそんな人ちゃうで。お前
彼氏ですって紹介してもろたんやろ？」
「問題はAさんです。
あの人、無自覚に人を惹き付けたり
寄っていったりしちゃうんで」
「まあ、わからんではないけどな」
「......」
「そんで、どうする？メシ」
「僕このあとAさんと会うことに
したんで」
「お前、それ早く言えや。ほな、お疲れ」
河井さんは手際よく荷物をまとめて
楽屋を出ていった。
僕がお疲れ様ですと口に出せたのは
ドアが閉まった後だった。
通話終了をタップして少し笑いがもれた。
「あ、その顔は噂の稲田君ですね」
『はい。うちのやきもち王子です』
視線を外したまま答えた。
きっと香住さんの頭には大きなはてなが
乗っかっているだろう。
だけど気の弱い香住さんに、やきもちの
原因が貴方だと告げたらワタワタして
しまうだろうから。これは秘密。
『すみません。私そろそろ』
「はい。後は私がやっておきますので
大丈夫です」
ありがとうございますと言って
自分のグラスを下げた。
裏口へ向かう途中、爽やかに笑う香住さんに
「いってらっしゃい」
と言われ、私も笑顔で
『いってきます』
と答えた。
火照った頬に夜風は気持ちよく。
これから会う直樹に何から話そうか考えた。
まずはケーキが好評だったこと。
人前に出すにあたって、何度か練習した。
直樹は、それを試食してくれて。
どれも美味しいと言うから
参考にならなかったけれど。
だけど、たくさん食べてくれた。
あとは、香住さんの色気がヤバい件を
考察しよう。
二人で笑いながら話せば、やきもちも
落ち着いてくれるだろうか。
香住さんがギター上手だったのも
報告しなきゃ。
これは私もビックリだったけど
香住さんは若い頃バンドを組んでたらしい。
早く直樹に会いたいな。
話したい事がたくさんある。
どんな反応するか想像しながら
早足で駅に向かった。
Fin.
*
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作者名：瑠海 | 作成日時：2021年2月20日 13時
