言の葉NOTE (ページ42)

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『何で、ここなんですか？』

「え、だって、最近来てなかったし」

『だからって......』

「いらっしゃいませ」

メニューを持ってきてくれた、吉瀬さん。含み笑いで。
私の背後で残りの二人の気配がする。

自分のバイト先にお客として座ってるなんて
恥ずかしいしかない。
しかも、りんさんと一緒なのに。ああ、もう。

時間が早いせいかお客さんも私達以外いなくて。
それなのに、接客フルメンバーで。
今日そんなシフトだったっけ。

りんさんは、てきぱきとメニューを
決めてくれてくつろいでる感じ。

「臨太朗君いらっしゃい」

「香住さん！ただいまです」

「うん。お帰り」

たまに見る馴染みのお客さんと交わす
香住さんとのやり取り。

訊ねようと思ったけど注文した料理が来て
うやむやになってしまった。

久々に食べる香住さんの料理。
賄いでも食べてるけど、お店で出す味とはやっぱり違う。

あったかくて優しくて、元気になるのだ。

『おいしい』

「やっぱ久々でも変わんないなあ。来れて良かった」

一度味わったら忘れられなくなって
また食べたいと思わせてくれる。
どんなに時間が空いてしまっても
いつでも待っててくれてるような。

そんな不思議な魅力のお店。

「Aちゃん、この前は、ごねんね」

......それは、どっち？

「怖かったよね」

......だから、どっち？

「ちょっと仕事でトラブルがあってさ。
　もう大丈夫だから」

......そっちか。

『解決したんなら、良かったです』

『......』

『彼女と喧嘩してるのかと思いましたよ』

結構、気合い入れて言ったのに。
すぐさま、りんさんの笑い声が響いた。

「あはははは。違う、違う」

そんなに可笑しかったのかひとしきり笑った後

「今さ、手かけてる女の子がいてさ。
　それどころじゃないんだよね」

『何それ、育成ゲームみたい』

「あはははは。いいじゃん。光源氏みたいで。
　学校で習ったでしょ」

『私、りんさん好みになる気はないですけど』

「いいねえ、Aちゃんらしくて」

背筋を伸ばして気丈に見えるように話してるけど
少しだけ頬が熱い。

「じゃあ、また今度一緒に珈琲飲んでくれる？」

『いいですよ』

キス、されそうになったことは
忘れてるふりをしてあげた。

あれ、光源氏ってたくさんの
女の子に手つけるって、そっち？

まあ、いい。
今の時代、私だったら絶対に許さない。

「Aちゃん、もう1つ
　言わなきゃならないことがあってさ」

*