言の葉NOTE (ページ34)

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放課後@図書室▽兼近大樹ページ34

*

図書室のドアを開けた。
カウンターには誰もいない。

......誰もいないのかなあ。全体を見渡す。
書架の方をみると、ピンクのふわふわが
動いていた。

......出直そうかな。
入り口でもじもじしていると、ふわふわから
声をかけられた。

「おお、この前泣いてたやつじゃん」

私の手元を見て

「面白かったっしょ？それ」

『ええ、まあ』

ちょっと待ってて。と言ってパタパタと
本を書架に戻していく。
.....ちゃんと仕事してるんだ。

先日、殆ど人のいないこの図書室で
泣いてしまった。
付き合っていた人と別れたばかりだった。

泣くつもりはなかったのに
突然込み上げてきた感情に為す術もなく。

それでも嗚咽を噛み殺して
書架の陰で泣いていた私に
このピンクのふわふわは
ずかずかと話しかけてきて
この本を渡してきた。分厚くて重い本だ。

家に戻って少しだけ読んでみると
意外にも引き込まれて
読んでいる間は泣かずにすんだ。

読み終わったから返しにきたのだけれど
できれば会いたくなかったな。

惨めにふられて泣いている所を
学校の人気者に見られて
どんな顔して話せばいいんだ。
ああ、さっさと帰りたい。

「ごめん。ごめん」

と言ってカウンターに戻ってきた、ふわふわ。

『お願いします』

と、本を差し出した。

「どうだった？結構キワドイ所も
　ちゃんと読めた？」

『は？』

......ニヤニヤしてる。
バカにされてるみたいでカチンときた。
無言で目にぐっと力を入れた。

「ふーん。そんな顔もできるんだ」

彼、独特の語尾をあげる喋り方。
さっきとは違って嬉しそうな顔。

......何なんだこの人は。
よくわからない人には近づかないにかぎる。

「はい。返却完了です。天野Aさん」

貸出しカードを手渡される。

「オススメの本借りて帰る？」

『いえ、結構です』

「え、なんで？本嫌い？」

急にしょぼんとしちゃってる。
ころころ変わる表情と感情の起伏に
ついていけない。

......こういう無防備な所が
人気者たる所以なんだろうか。

『なんか、あるんですか？オススメ』

ぶっきらぼうに呟いたのに
相手は目をキラキラさせて
そうだなーと楽しげ。

変な人。

「やっぱ、キワドイのはない方が良さげ？」

『......そういうの
　聞かなくていいですから』

「あはははは。そうなの？
　今後の役にたつでしょ？」

『皆が皆、あなたと同じとは限らないでしょ』

「まあ、そうだけどさ」

*