言の葉NOTE (ページ29)

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なに、この状態。
なんか、分からんうちに
女の子仰山寄ってきて。
わーわーきゃーきゃー、うっさいねんけど。

部長には絶対動くな、言われて
奥に座らされとるし。
Aは、あっちで分かりやすく
ぶーたれとったし。
行ってやりたいけど、動けんしなあ。

部長の事は尊敬してる。
あの人何年ここにおるんやろう。
留年し過ぎて、もはや主。

顔も広くて。
この居酒屋も部長の知り合いの所で
本日貸し切り。

去年の学園祭。
軽音楽部を紹介してくれたのも部長。

楽しかったなあ。
曲作ったり、ステージに立ったり。
軽音の人らも皆いい人達で
いい曲をありがとうって言ってもらえた。
好きに作らせて貰ってこっちこそ感謝やった。

また、やりたいなあ。

「佐々木さん、グラス空いてますけど
　何飲みます？」

人が浸ってんのに、うっさいなあ。

「ああ、おんなじの」

こいつ、なんやねん。
ずっと隣に張り付いてきて。

「佐々木さん、今年の学祭また軽音で
　出るんですか？
　私、絶対見に行きます」

「ああ、まだ分からんけど」

私も、私もって周りも口々に喋り出す。
...声が頭に響いてきて、鬱陶しい。

また名前も知らん隣の子が
お酒きましたよって体を寄せてくる。
無言で受けとると小声で話かけてきた。

「佐々木さんの彼女ってこの中に
　いるんですか？」

「.......」

「あの、私と一回だけ遊びません？内緒で」

上目遣いで見つめてくる。
その自信はどっからくんねん。

「......、いらん」

「え？」

「......いらん。そんなん、いらんねん」

呆気にとられている彼女を見て
あかん、もうここにはおれんと思った。

ちょっと煙草....と言って席をたつ。

外に向かおうとすると途中で
部長が寄ってきた。
咄嗟に、すんませんと謝った。
ぽんっと肩を叩かれて、大丈夫、後は任せてと親指を立てられた。

「あの、Aさん。私そろそろ帰ります」

『え、用事？』

「バイト、ヘルプで頼まれてて。
　一時間だけなんですけど」

『この辺道分かる？教えようか？』

「あ、大丈夫です。この近くのお店なんで」

「ええ？相澤さん、もう帰んの？」

『......石川くん居たの？
　....存在感なかったね』

「いや、見とれ、いやっ、あの、その」

『.....相澤さん、そこまで送るわ』

連れだって出口に向かった。
彼女と会話したのは短い時間だったけど
いい子なのは分かる。

別れ際、バイト先の飲食店のショップカードをくれた。良かったら来て下さいと笑って。

*