言の葉NOTE (ページ21)

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『ねえ、川島。競馬ってやったことある？』

「なに？いきなり。誘ってんの？」

『あ、いや。直人先輩の興味ひくことって
　何かなと思って』

「なんや、今日の相談ってそれかいな」

『なんか、もうちょっと近づきたいなって』

「.......」

『どうかな、脈あると思う？』

「誘ってみたら？四の五の考えんと
　まずはそこからなんじゃない？」

『そうだよね。一歩踏み出さなきゃだよね』

「なあA、競馬場デートって知ってる？」

『なにそれ、そもそも行ったこと
　ないんだよね、競馬場』

「続きは店着いてからにしよか。
　雨あがったし」

『うん。行こう行こう。
　早くビール飲みたいや』

「ふはっ、何なん相変わらずやなあ」

『いいじゃん！考えてたら
　緊張してきちゃって喉渇いたんだもん』

勢いよく腕を取られて歩きだした。
せわしないなあ。
早く行こうとせっつく様は子供みたいで。
こういうの悪くないなあと思った。

自分がAに救われた分
お返しをしてやりたいと思っている。

だけど、こいつの恋が成就したら、
僕達の関係はどうなるんやろう。

いつもみたいに、僕の話を笑って
聞いてもらえる？
想いが通じて良かったねってちゃんと言える？

え？そう言える？

まだ気づけていない自分の中のこの気持ちに
名前をつけるとしたら何になるんだろう。

急に鼓動が早くなって
頭にモヤがかかったようになった。

今すぐ答えを出す必要ないと誰かの声がする。
耳の奥で誰かの笑う声がする。

足早に歩くAに引っ張られてついていく。

雨上がりの夕焼けの光が僕らを射して
眩しくて少しだけ目を閉じた。

Fin.

*