言の葉NOTE (ページ1)

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桜吹雪▽兼近大樹ページ1

*

北海道の桜は5月に満開になる。
厳しい寒さがやっと終わって
春が来ると花達が一斉に花開く。
桜だけじゃなくて、梅とかチューリップとか
鈴蘭とか。

だから、北海道の春は一気に華やぐ。

友達には、本州に多くある白い花の
ソメイヨシノが好きだって子が
多いけど。あたしは、断然
エゾヤマザクラが好き。
寒さが厳しければ厳しいほど
鮮やかで濃い色の花が咲くのが蝦夷山桜。

それは、まるで兼近先輩の
髪の色みたいだから。

4階のこの場所から外を見る。
校庭を歩いている3年の先輩達の
笑い声やふざけあう声が聞こえてくる。
ひとりまたひとりと帰って行く。

階段を上ってくる足音がした。

勢いよくドアが開けられる。

「おっ。新図書委員長！お疲れっす」
『....お疲れ様です。旧図書委員長、先輩』
「最後の仕事持ってきてやったぞ」
『....あの、あたしの仕事は
　これからなんですけど』
「はははは、そっかそっか。
　仕事最後なのはオレでした」
『卒業式の日に、本返しにくるって
　どんな委員長ですか』
「まあまあ、お願いしまーす」
『........』

こんな日なのに通常運転....先輩、最強です。
さっきの厳かな式の雰囲気は
何処へいったのやら。

兼近先輩との出会いは、高校1年の冬頃だった。

当時付き合ってる人と別れて
こっそり泣いていた。図書室で。
ここにあまり人が居ない事は知っていた。
それでも書架の影で声を出さずに
泣いていたのに。
兼近先輩は、そんなあたしを見つけて
話しかけてきた。

「なにやってんの？」
『........』
「........」

あたしが何も話さないから、離れていった。
いや、泣いてる女子に声かけるかね。
ほっといてよ。
そしたらまた戻ってきて、差し出された。

「これ、めちゃくちゃ面白いから
　読んでみて？」
『は？』

一瞬意味がわからなくて
思わず反射的に渡された本を
受け取ってしまった。ずっしりと重い。

『何ですか、これ』
「だから。騙されたと思って読んでみ？」

泣いてる女子にこんな本渡す？
しかも超分厚いんですけど....。
なんか、呆気にとられすぎて
流れていた涙も止まってしまった。
涙でぐちょぐちょの顔を制服の袖で拭いて
本をもってきた奴の
顔をよく見てやろうと思った。

『うわ....すご。....髪、ピンク』

思わずでた言葉に兼近先輩は
ツボに入ったのか大爆笑で
ひとしきり笑った後、お前面白いねと、
あたしを見て微笑んだ。

*