春が来て僕ら ページ48
***
枝ばかりだった樹に
いつの間にかついていた蕾。
暖かい南風に吹かれて
先っぽが緑からピンクになっていく。
最初の1つが花開いたのを見て
フライングやなって笑っていたら
また、1つ、2つ、3つ。
知らんまに結構咲いていることに気付く、桜。
花見したいなって隣にいた濱家が呟いたのを
聞き逃さなかった。
それから場所と日時を確保して
これたら来てのスタンスで
メンバーを募った。いつ来てもいいし
いつ帰ってもいい緩さで。
言い出しっぺの濱家がバーベキューも
用意してくれるらしく
そっちは全部お任せで、参加者は自分が
飲む分のお酒とおつまみを
用意することになった。
さすが、世話好き仕切り好きの濱家。
これ程、頼りになる同期はいない。
迎えた当日、数日前までぽかぽか陽気で
このままいったら満開になってまうなって
話していたのに、ここにきての花冷え。
桜自体も五分咲きくらい。
下の方はまだ咲き始めな様子だが
陽の当たる上の方はほぼ満開と
言っていいくらいで華やかさは充分だ。
なんだかんだ言って、春は雨が多い。
桜の満開時期なんて気をぬいたら
終わってしまう。
開花途中でも早めにやってしまった方が
いいのだ。
予報では明後日から雨になるらしい。
濱家のどや顔が目に浮かぶ。
仕事終わりに合流した。
もう何人か飲み始めていて楽しげな雰囲気が
伝わってくる。
「ゆずる、お疲れ」
火の番と化した濱家の側に行って
労りの乾杯をふたりでかわす。
「やっぱ、外で飲むの旨いなあ」
もう何本か飲んでるだろうに
一本目のオレに調子をあわしてくれる。
「ほれ、食べ」
いい具合に焼けた肉を一枚くれた。
「んー、めっちゃ旨い」
唸るオレを見ながら満面の笑みで
ビールを飲んでいる。
....オレをつまみにすな。
と、言いたかったけれど。
濱家には場所確保やら準備やら
世話になったので言わないでおく。
「おーい。肉焼けたでー」
はいはーい。と、やって来たのは濱家の彼女。
河井さんお疲れ様ですと会釈してくれて
お皿に山盛りの肉を持っていこうとする。
「全部食べんなよ」
「食べないよ！
ちゃんと、皆さんにお配りします！」
こいつめっちゃ食べんねんとオレに話しかける濱家の後ろで
彼女が、べぇっと舌を出す。
くくっと、笑いそうになるのをビールに口をつけて我慢した。
「おいっ。お前」
***
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 85人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「芸人」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：優朱 | 作成日時：2020年12月8日 21時
