Sweet Bitter Sweet / けんた ページ45
……
「へえー、チョコの湯煎ってこうやってやるんやね」
バレンタインを明日に控えた土曜の午後
何でわたし、この人といるんだろう。
**
川西からこれ返しといてと言われた本。
自分で返してよと言うも時間がないからの一点張りで。
数日後それを取りに来た秋山さん。
川西の先輩で何度か会ったことある人で。
一人暮らしの女子の部屋に、本取りにこさすってどういう了見？
川西、今度会ったらしばく。
「ごめんねAちゃん。本いつでもいいって賢ちゃんには
言ってたんやけど」
『別にいいですよー』
急いでなかったの？川西が言ってたのとニュアンスが違う...。
本を私に預けたからという川西からの連絡で取りに来た秋山さんは
やり取りしてた玄関で、湯煎にかけてたチョコの香りに気が付いて
作ってるの見せてほしいって言ってきた。
それで、この状況。
秋山さんはニコニコして見てるだけだけど
チョコ作ってんのを見られてるの緊張する。
「去年、Aちゃんが作ってくれたやつ、美味しかったで。
皆で取り合いになってさ」
去年気まぐれで作った生チョコ。当日川西が劇場で仕事あるから
皆に持っていきたいって言って。ひとりあたりは少量だけど
とにかく数を沢山。持っていったのは川西やけど
皆、川西から貰って嬉しかったんかな。
好評やったって言われたから、何となく今年も作ってしまった。
「Aちゃんって、賢ちゃんの事、川西って呼んでるんやね」
『はい。昔からなんです。年下が言う呼び方じゃないですよね』
溶けたチョコをくるくるかき混ぜる。
川西とは、いわゆる幼馴染み。
小さい頃は、賢ちゃん賢ちゃんって後ろをついて回ってたけど
ある時から、川西って呼び始めた。
思春期に入って、川西がモテ始めてから。
目ざとい女子達から、あの隣にいる女はなんだってなって
お決まりのパターン。
ひと気の無いとこで囲まれて、あんた川西くんの何？って。
いやマジで、男の目の届かない本気女子の迫力は半端ない。
しどろもどろで幼馴染みって分かってもらって解放されて。
多分その辺りから川西呼び。川西もその頃から私の事弟みたいって
公言しだしたこともあって。
表向きに、恋愛対象から外された幼馴染みの出来上がり。
別に呼び方なんてどうでもよかった。
彼女になりたい訳じゃないし。
隠れてあんな事する女ら、川西が選ぶわけないし。
....
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作者名：優朱 | 作成日時：2020年12月8日 21時
