夜の公園 / ゆずる ページ42
*
仕事が終わって携帯を見たら、着信が入っていた。
今から一時間位前。
メッセージもラインもなくて着信が一件だけ。
楽屋のカレンダーを、ちらりと見る。
何やろう。胸がざわざわする。
「河井さん、今日この後ですけど」
「すまん。稲田今日はパス。また今度な」
明日の確認をして、じゃ、と言って荷物を持った。
稲田が何かブツブツ言ってたけど無視して楽屋を出る。
建物を出てから着信の相手に電話をかけた。
たいした事なかったらいいんやけど....。
何回目かのコールの後、相手に繋がった。
「Aちゃん？」
指定された公園に着いたのは、それから更に一時間後だった。
「ごめん、遅なって」
気がせいて慌ててきたせいか少し息がきれる。
『こちらこそ。急にごめんなさい』
申し訳なさそうにしゃべってくれるけど、心なしか顔が青白い。
今日の夜は少し冷える。
あれ、Aちゃん、いつからここにおるんやろう。
ここに長居するのはよくないかもなと思いながら隣に腰掛けた。
「大丈夫？」
言葉数が少ないのを心配して訊ねる。
『....大丈夫。....に見えないですよね。さすがに』
乾いた声で力なく答えた。
『....』
言いにくそうに、黙り込むから。こちらから聞いてあげる。
「....。ダメ、やった？」
驚いたように一瞬だけ顔をあげた後、また俯いて、
はい。と頷く。
泣くまいと我慢してるんかなって要らんことが頭をよぎって
この時点でもう、抱き締めてあげたくてしょうがなかったけれど
なんとか踏ん張った。
『オーディション全然ダメでした。
結果、ちゃんと伝えようと思って』
今度は、しっかり目をあわせて答えてくれた。
受けてる段階から自分の実力不足を痛感して、結果が届いて更に
気持ちが落ち込んだと説明してくれた。
『もう、悔しいの通り越して涙も出ません』
オレもあのクリスマスの夜、狭き門ですよねと、さらっと言ったけど
後で自分なりに調べた。
養成所に行って頑張ったからといって
プロの声優になれる訳ではないということ。
声優でデビューしたからといって、順風満帆ではないということ。
沢山の人が目指すなかで、日々勉強しながら
こなしていく職業であること。
....芸人も同じやなと思った。一緒にしたら怒られるかな。
....
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作者名：優朱 | 作成日時：2020年12月8日 21時
