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....
「声優の仕事のオーディションあるんやったっけ」
『....はい。1月下旬です』
「やれることをやるしかないよなあ」
『そうですね。芸人さんもそういうのあるんですか？』
「まあなあ、賞レース挑戦したりとか、テレビの仕事だって
一つ一つが次の仕事のオーディションみたいなもんやって思うよ
気ぃぬけへんわ」
『この大きな仕事は、どうしてもとりたいんですよね、わたし』
「.........」
絶対とりたい。
わかるなあ。努力や根性だけでは、足りない世界。
運や、世情、人との繋がり。
色んな要素を孕んで、まわっていく仕事。
彼女は、きっと人一倍努力しているだろう。
職種は違えど地続きの世界。何となくわかる。
『河井さんは、変わってますね。
普通こんなとき、頑張れとか言いません？』
「え、ああ。でもAちゃんは、もう頑張ってんねやろ」
「これ以上、言われたないかな思て」
『........』
『面白いですね。....そう。
私最近、頑張れって、言われたくないし、言いたくもないんです』
『言ってくれる人に悪気はないってわかってるんですけど
言われると、プレッシャーを感じてしまって。
私も誰かに感じさせてたかもって思うと、やるせないです』
「プレッシャーかあ.....」
ふと、元カノのことを思い出した。クリスマス前に別れた彼女。
「今のAちゃんの話聞いて思い出した事あるんやけど
聞いてくれる？」
はいってAちゃんが答えてくれて
オレたちは境内にあるベンチに腰かけた。
こんなこと言っていいのかなと思ったけど
前の彼女の事を話してみる。
今の自分なら、あの子も辛かったのかもと思えるのに
別れたばっかの時は冷静になれなかった。
プレッシャー.....。だったのか。
別れる前の何ヵ月かは、わたし頑張るねが口癖みたいになっていた。
忙しさにかまけて額面通りに受け取って
彼女の内側のSOSに気づけなかった。
....なにやってんだかオレ。
あの時ああしていれば、こうしていればと後悔のような懺悔のような
入り乱れた気持ち。だけど、もう、元に戻れないのは分かっている。
心が離れてしまったから。
どうにかしてヨリを戻したいと、もう思わない。
ごめんな。たぶん、オレも疲れてた。
障りのない範囲で話すと。Aちゃんからは
そうですか。と、ひとこと。
『連絡は？』
「番号変わってて、もう....」
もう繋がれない。
……
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作者名：優朱 | 作成日時：2020年12月8日 21時
