冬の醍醐味 / りゅういち ページ21
....
「あー、もう、くそムズい」
彼氏が悶絶してます。
新しいカードマジックを練習している彼氏の濱くん。
なかなか上手くいかないようです。
彼女の私は、炬燵に寝転んで漫画を読んでいます。
あー、ぬくぬく幸せ。
「なー、A聞いてんの？」
聞いてはいます。見てはいませんが。
そもそも、私は濱くんのマジックが大好きで、
バシッと決まった後のドヤ顔や、凄い技を繰り出す手つきが
超大好きなのに。私の隣で練習なんてしないでほしい。
タネも、仕掛けも、知りたくないのです。
「あー、もうやめたっ」
私の隣に寝転ぶ濱くん。
ちょっと、近くてドキドキしてるけど
素知らぬ振りで漫画を読みます。
ｶﾁｺﾁｶﾁｺﾁ
二人とも黙ったままでいると、部屋の時計の音がやけにおおきい。
濱くんは仰向けのまま、指で500円玉をクルクル回している。
器用だなあ。
「なあ、A？オレ、マジックうまなった？」
すぐ隣にいるせいか、かすれ気味の甘い声に脳が痺れそう。
『うん。凄いと思う。濱くんのマジック見るの好き』
「ホンマっ？」
ガバッと、私の方を向いてくるから、ビックリして一瞬目が合う。
濱くんは、またパタッと寝転んで、クルクルし始める。
『濱くんって、指きれいだよね。マジックする人の所作って独特で
見とれちゃうな』
「A昨日好きって言うてたもんな。俺のゆび」
『昨日？』
「ん。昨日の夜」
漫画を読みながら顔に熱がこもるのがわかる。
『............』
「昨日の続きする？」
『は？』
咄嗟に、漫画で顔を隠す。
『し、しないっ』
ガバッとまたこっちを向いて、私の腕を掴む。
「目ぇ、見て？」
ｶﾁｺﾁｶﾁｺﾁｶﾁｺﾁｶﾁｺﾁ
「A、今めっちゃ、えろい事考えてる？」
『か、考えてないっ』
「ふはははははは。A顔真っ赤。
いじめがいあるわぁ」
もう！って言おうとしたら、いきなりチュッとキスされた。
「まあええわ。これで手打ちにしといたる。ははははは」
『............』
....ドＳ軍曹がっっ！
いつも、いつも、私だけがドキドキしていて、悔しい。
どこかで仕返ししたいのに、全然敵わない。
『のど乾いた。珈琲いれる。濱くんは？』
「俺もお願い」
立ち上がってキッチンへ。
お湯を沸かす。
濱くんは私が読んでいた漫画を読み出した。
お湯が沸くのを待っていると、窓からチラチラした影が見えた。
なんだろうと思って窓を覗く。
....
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作者名：優朱 | 作成日時：2020年12月8日 21時
