【鬼滅の刃】 〜霜柱の少女〜 3rd

八十六話［感情的］ ページ26

Aside








『起きた時には、もう隣の街にいた

生きていたのは私の家族と、その男の家族だけ




私の家族は私の話を信じてくれた

鬼という存在をすんなりと受け入れた



だから男の話もしてやろう、全部話してやろうと思ったのに


何故か声が出てこない

それからその男とは一切顔を合わせなかった。




それでね、私はまたすぐに引っ越したの



そして、あの夜のような事が起こらないように…

姉の訓練の元、鬼殺隊に入隊した


　


でもまさかあの男と、こんな場所で会うなんて思ってもいなかった



…その男がっ…！！』






「今日の人…」







善逸が口を開いた

その言葉に私は小さく頷き、話を続けた






『あんな事をしておいて、今更訳の分からないことを言われたって何も出来ない



命の大切さを分かっていない

人間の弱さすら分かっていない



そんな奴に鬼殺隊の資格なんてないよ…


まあ、私が言えた事じゃないか』






途中から、自分に傷を付けているようで辛くなった



何も出来ずにただ友達が死ぬのを見ていた


寝ている間に沢山の人が犠牲になった



なのに私は生きている





自虐的な笑みを浮かべれば、つられて目頭が熱くなってくる





『ごめんね、なんか変な話しちゃった

聞いてくれてありがとう。



鍛錬お疲れ様、明日に備えてゆっくり休んでね




…おやすみなさい』






そう言って、
ひんやりとした縁側に手をつき、力を込めて立ち上がった




座っている善逸に背を向け、自室に戻ろうとした瞬間




左手首を掴まれた


二人しかいない空間

誰に掴まれたかなんてすぐに分かるのは当たり前



なのに肩が少し揺れるほど驚いた

普段は第六感が使える。

使えるのに


どうして…


今に始まったことでは無いという事実が、自分をどんどん追い詰めていく


不安で押し潰されそうになる



今の状況と、自分の考えている事は全く噛み合っていなかった





「待って」





手を掴みながら私に言った





「一人で抱え込まないで」






意外な言葉だった






『…抱え込んでないよ

復讐するとか、償わせてやるとか思ってない



付き合うつもりもさらさらないし、わざわざ返事をするつもりもないの



どうせからかってるだけだよ、私の事



そういう事をして楽しんでるのかな』







背を向けたまま話し続けた



手も掴まれたまま




掴む力は少しずつ強くなっていく





痛くはない






けど、心が痛かった

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