ハロウィン3-祭りの喧騒の追憶2 ページ8
「マルス殿は本当に素晴らしい方だった。力はさることながら騎士として、人として皆の手本である為にいた様な方だ。そのくせプライベートでは突拍子もない言動もしばしあったな」
「突拍子もない事?」
「ああ、丁度今と同じハロウィンの真っ最中だった時だ」
ホメロスはそう前置きすると、穏やかな声で昔語りを始めた。
少年兵だったホメロスは、いつもの鍛錬を終えた後本でも読もうかと、グレイグと相部屋である自室へ向かっていた。
「ホメロス」
「え?―――うわっ」
突如呼びかけられて声の方を振り向くと、そこにはゾンビのマスクを顔につけ、肩から足元にかけて長い漆黒のローブを纏った怪しい男が立っていた。
声を掛けられるまで気配を全く感じる事ができず、更にこんな姿を至近距離で見てしまったホメロスは当然のごとく驚きの悲鳴をあげる。
目を見開いて二の句が継げずにいるホメロスに、男は明るく笑ってマスクを取った。
「驚かせて済まなかったな、私だよ」
「マルス殿!」
それほど華やかではないが、日焼けした顔に整った目鼻立ちの青年が無邪気そのものの視線をホメロスに向けていた。
「一体どうしたんですか、その姿は?」
「今日はハロウィンだろう?せっかくだから私も楽しもうと思ってな。出店もある様だし、よかったら一緒に回らないか?」
「え、で、でも僕は…」
祭りはあまり好きではないので…
そう言いかけたところを屈託なく遮り、再度ホメロスを誘う。
「本読んでばかりいても身体によくないぞ?実はグレイグにも声をかけてあるんだ。あいつも行くってさ」
「わ…かりました…」
全く乗り気でなかったにも関わらず、ホメロスはいつの間にか頷いていた。
少しも威圧的ではないのに、マルスには人を従わせてしまう何かがある。
「それじゃあ、城を出たすぐ先の噴水広場でな」
そう手を振ってマルスが去るのを見送った後、ホメロスは独りごちた。
「何かマルス殿と話していると、調子狂うんだよな…」
言いながら決して不快ではない、不思議な気分に捉われながらホメロスは部屋へ向かった。
読書ではなく、着替えるために。
「お父様がそんな事を…」
ホメロスの話に、そう言えば意外とお茶目なところもあったなとAは朧気ながら思い出した。
Aが転んだりして泣いていると、ちょっとした手品などをやってみせてくれた。
今思えば些細な仕掛けだったが、父から紡ぎだされる不思議を見ていると自然と笑顔になれた。
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作者名:遠山すずか | 作成日時:2018年10月31日 10時