交差する光と闇6 ページ48
まあ自分の弟子を他の者に託すのは面白くないのだろう、例えそれが主であっても。
“むう、惜しい事だな。だがあの娘、どこか気になる。あの気配、どこかで感じた事がある気がするのだが…”
「感じた事がある、とは？」
ホメロスは問うたが、答えが返ってくる事はなくウルノーガはしばらく沈黙した。
が、やがて再び声が響く。
“まあ良い。私が恐れるには遠く及ばぬ。ホメロスよ、次の段階に入るぞ”
「承知いたしました、ウルノーガ様」
「はあっ」
掛け声と共に、敵の剣を弾き飛ばす。
敵兵が一斉に逃げていく中、指導者の１人を捕え、逃げ出す事のない様に見張りを命じたホメロスは剣を収め、陣営に戻った。
その中でも最奥にある自分のテントに入り、腰を降ろして一息つく。
宰相となったホメロスは、本来なら戦に赴くのではなく城に留まり王の傍らで国政を補佐するべきなのだが、敵軍の勢力により大きな戦となり、城を離れているのだった。
幸いまだモーゼフ・デルカダール三世が現役であり、周りにも優秀な重鎮が揃っているためホメロスが遠征しても問題はなかった。
次期国王である親友グレイグは、妻マルティナと共に城に残っている。
ホメロスはそれについては異論はなかったが、グレイグはかなり不服に思っていた様だった。
本来王として国政に勤しむよりも、戦で剣を振るうのが性に合っている友は、申し訳ない様な、そして自分も戦いに赴けなくて歯がゆい様な顔で自分を送り出してくれた。
グレイグのその時の顔を思い出し、僅かに笑うとテントの外に人の気配を感じた。
「入れ」
「失礼します」
入って来たのは、自分の跡目を継いで新たに軍師となった、誰よりも愛おしい女。
「戦況はどうだ？」
敢えて事務的な態度で尋ねると、軍師であり、ホメロスの妻でもあるAは同様の口調で答えた。
「はい、問題なく制圧できております。明日には完全に蛮族を鎮圧できるかと」
「そうか、ご苦労」
戦況報告を受けたホメロスは、手のひらをAに向かって差し出した。
「ホメロス宰相？」
名を呼んで問うAにホメロスは甘い声と視線で語り掛ける。
「明日には城に戻らねばならぬからな。―――来い」
「…失礼します」
結婚してもなお恥じらいが抜けきらない妻は、おずおずとホメロスの手を取った。
そのままぐいと引き寄せ、Aを抱きしめる。
「勝利の知らせを、待っているぞ」
「お任せ下さい」
抱き返しながら、Aは耳元で囁いてきた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 17人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：遠山すずか | 作成日時：2018年10月31日 10時
