交差する光と闇4 ページ46
Aの酷く落ち着いた声にそう聴かれ、ゆっくりと首を横に振る騎士。
Aは無言で剣を柄に収めた。
年齢不相応なほど冷静な声に恐怖を見出し、騎士はそのまま床にへたり込む。
「おいお前達、そこで何をしている？」
声の方向を見ると、騎士たちは更に顔を青ざめさせた。
「ホ、ホメロス様！」
見ただけで状況を概ね把握したホメロスは、Aを囲む騎士たちを凍り付く様な冷酷な瞳で見下ろした。
「どうやら私は相当見くびられている様だな。何の素質もない、非力な小娘に無駄な訓練を施していると」
「い、いえ、決してその様な事は…」
震えあがった騎士は言い訳をしようとするが、ホメロスから発せられる威圧感の前に黙るほかなかった。
「私は強くなる見込みのない者に教えるほど暇ではない。その娘の騎士としての素質はかなりのものだぞ。少なくとも、女相手に数人がかりで痛めつけようとする奴よりはな」
「な……っ」
「それでも納得できぬと言うなら手合わせをしてみるか？審判は私が執り行ってやろう」
そこまで言われては、引き下がるのは騎士が廃ると言うものだ。
騎士たちは顔を強張らせながらも頷いた。
「いいか、お前達はそれぞれ１本勝負でAと戦う。１人でもAに勝てたのならばAを見習いに戻し、逆にお前達を昇格させてやろう」
「は、はい！」
またとない機会を与えられ、騎士たちに闘志が灯る。
先ほどは不意を突かれて驚いたが、手合わせの相手は連戦だ。
自分たちを全て相手にするにはAの体力がもつとは思えない。
騎士たちは顔を見合わせ、にやりと意地の悪い笑みを浮かべた。
だが。
「始め！」
ホメロスの開始の合図と共に、最初の１人がその体格を活かし、Aに切り込んで行った。
捕えたと確信し、剣を勢いよく振り下ろす。
「あれ？」
振り下ろした剣には手ごたえどころか、目の前からAの姿が忽然と消えていた。
すると後ろから、仲間が何やら騒ぐのが聞こえてくる。
一体何だと振り返ろうとした途端、後ろ首に激しい衝撃を受け、その場に転倒した。
「がっ！」
情けない悲鳴を上げてどうにか身体を起こそうとした時、目の前に剣を突き付けられ、白旗をあげざるを得なくなった。
「勝負あり」
ホメロスの淡々とした声による審判にがくっと肩を落とす騎士。
その後残りの騎士がAに挑んだが、ある者はあっさりとかわされ、ある者は受け流され、結局１人もAを打ち負かす事はできなかったのである。
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作者名：遠山すずか | 作成日時：2018年10月31日 10時
