交差する光と闇3 ページ45
少し背を屈めて問うホメロスを、Aはまっすぐ見つめ返す。
そして。
「ホメロス、私騎士になるわ」
「何？」
Aから発せられた言葉をすぐには受け入れられず、ホメロスは再度問うた。
「本気なのか？」
まっすぐ見つめ、Aは強く頷く。
「メイド見習いはやめる。強い騎士になってマルティナの敵を討つの。だから……」
一旦言葉を途切れさせて顎を引き、改めてホメロスを見上げて言った。
「改めて、私を騎士として鍛えてちょうだい」
「ダメだ！もっと集中しろ！それでは呪文を放つ前に魔物にやられてしまう！」
「はいっ！」
もとから厳しかったホメロスだが、この前の宣言を境に更に厳しさを増した。
体力、気力共に幼い年相応並みのAにとってはこの上なくキツい。
だが例え死ぬ事になったとしても、投げ出すつもりはなかった。
自分の誓いを覆すのは、騎士として最も許されない事。
師匠であるホメロスやグレイグからは勿論だが、父マルスからも散々聞かされた話だ。
早朝からグレイグの教えに従って剣を振り、夜遅くまでホメロスから呪文の訓練や知識、ロトゼタシアの地理、歴史などを頭に叩きこまれる日々が続いた。
呑み込みの早いAは、着実に力を身に着けて行き、同年代の兵士見習いの中でも首席になるまでになった。
彼らからも憧れられていた、今は「双頭の鷲」の称号を与えられているグレイグ、ホメロスから直に教育を受けた者として、当然Aは嫉妬による洗礼を受けた。
だが指導者による手合わせでは常に無敗、更に圧倒的な力を見せつけたため、嫉妬はやがて尊敬へと変わって行った。
それから数年ののち、Aはいち早く一般兵となり、彼らに混じって訓練を行う様になり、同様に嫉妬を受けた。
数人に呼び出され、取り囲まれたのだ。
「女のクセに調子に乗りやがって！」
「親が強い騎士だったか何だか知らねえが、お前みてえな細っこい女が俺らに混じって訓練だなんて、士気が下がるんだよ。この親の七光りがっ」
１人がそう言って、Aの顔に拳を叩きつけてきた。
が、それを難なくAはかわす。
「え？」
幼い容姿に似合わず鮮やかな身のこなしに、騎士は面食らった。
チャキ…
聞こえてきた金属音に、その騎士と他の取り巻きは目を見開いたまま硬直する。
Aに殴り掛かった騎士の首元に、いつの間にか剣の切っ先が突き付けられていた。
「続けますか？」
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作者名：遠山すずか | 作成日時：2018年10月31日 10時
