海底王国奇譚10 ページ23
誰にともなく言うホメロスに対し、グレイグが険しい表情で問うてきた。
「どういう意味だホメロス！姫様が間違いを犯したと…」
「やめてグレイグ！そんな事は言っていないでしょう？」
「ああ、姫様を責めたつもりはない。間違いだと断言もできぬ。だが…」
ホメロスも黙り込んでしまい、Aはと言えば、自分の気持ちを素直に言うしかなかった。
「いつか、キナイさんも、もしかしたらロミアさんも生まれ変わって、また出会えるといいわね」
３匹は頷いた。
数日ムウレアを堪能し、とうとう明日は地上へ帰る夜の事。
「何だかあっと言う間だったわね。殆ど見て回ったらあとは魚になって泳ぐ事が主になってしまったけれど、楽しい旅行だったわ」
「そうだな。魚になるなどここに来なければありえなかっただろう」
「本当ね。別行動だったから２人で過ごす時間も沢山あったしね」
「ああ、だが…」
ホメロスは自分のベッドから抜け出し、Aの頬に唇を軽く押し当てた。
「この場と姿ではお前と愛し合う事が出来ぬ。それがもどかしい」
耳元で囁かれ、ただでさえ紅い身体を更に紅潮させて言い返す。
「し、仕方ないでしょう！？最後の夜は全員この姿で過ごそうって言う事になったんだから！！」
そう、Aとホメロスを始め、今回の旅行に来た全員が今は魚の姿になっているのだった。
紅魚のA、白魚のホメロス、青魚のイレブン、緑魚のマルティナ、黒魚のグレイグ、亜麻色魚のエマ、黄金色のシルビア、ピンク魚のアリスと、宿屋はカラフルな彩りで溢れている。
それぞれのパートナーと話に花を咲かせているため、幸い今の言葉は他の者達には聞こえていなかった様だ。
ドギマギさせられたAであったが、次の瞬間魚ホメロスを見てまた吹き出す。
「ぷぷぷ…」
旅行中に魚ホメロスは見慣れていたが、この姿であんな言葉を、と思った途端に可笑しさが込み上げてきてしまったのだ。
ホメロスの目は更に険しくなり、自分の魚顔がAの視界に入らない角度に回り、言った。
「地上に戻ったら存分にお前を抱くから、覚悟しておけよ」
「はいはい」
隠れてもあの姿だと思っているため、笑いは止まらなかった。
だが、マルティナから聞いたロミアの話を思い出し、突如笑いが止まり、黙り込む。
そんなAに気付き、ホメロスも静かな声で訊いてきた。
「ロミアと言う人魚の事を思い出しているのか？」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 17人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：遠山すずか | 作成日時：2018年10月31日 10時
