海底王国奇譚３ ページ16
アリスが大砲を一発撃ち、クラーゴンが怯んだ隙に一同は各々の役割で迎撃を開始した。
海戦を得意とするホメロスの指示はさすが的確で、始めに不意を突かれた遅れをすぐに取り戻し、逆に有利な戦闘に覆った。
グレイグに抱えられ、放り投げられたマルティナは巧く宙で旋回し、その細い脚からは信じられない程の強烈な蹴りを連続で繰り出した。
１匹につき２つの眼球を、確実に潰していく。
イレブンとシルビアの片手剣とグレイグの両手剣も確実に、敵から脚と体力を奪っていった。
更にその頭上では役目を終えたマルティナが次の敵、またその次の敵、最後にマストに飛び移ったのと同時に、Aのメラゾーマとホメロスのドルマドンが炸裂していく。
縦横無尽に動いていた無数の脚が、やがてゆっくりになり、ほぼ停止した。
「―――これで終わりよ！みんな、伏せて！！―――イオグランデっ！！！」
全員が伏せたのと同時に、Aの手から眩しい光と船全体が揺れる程の轟音が響き、クラーゴンとテンタクルスの死骸は海の底へ沈んでいった。
ふうとため息をつき、半ば呆けているエマへと歩み寄る。
横でマストに捕まったままのマルティナを気遣い、グレイグが向かうのが見えた。
「大丈夫？エマ」
Aの呼びかけに、エマは気丈にも微笑んで見せた。
「ええ、大丈夫！私こそ大した力になれなくてごめんなさい…」
「そんな事はない。お前の回復は助けになった」
そっけなくそう言ったのはホメロス。
驚いたエマは目を見開き、再び微笑んだ。
「有難うございます、ホメロス将軍」
無言で離れていくホメロスを追い、Aは感謝の言葉を述べた。
「貴方の指示のおかげで助かったわ、有難うホメロス」
「当然だ」
気をよくしたホメロスであったが、次のAの言葉で眉間に皺を刻む事になったのであった。
「もしかしたら、戦わずに説得できたんじゃない？顔なじみのクラーゴンなら」
「知らん。私でもクラーゴンの見分けなどつかぬ」
「それじゃあ、見ていてね。イレブン、お願い」
マルティナに促されてイレブンはこくりと頷き、不思議な魔力が宿るマーメイドハープを奏でた。
イレブンが１本の指で弾くと、ハープはひとりでに美しく優しいメロディーを奏で、一行を乗せた船はすっぽりと大きな泡に包まれたのだった！
船を包んだ泡はゆっくり、ゆっくりと海底に沈んでいく。
いや、潜ると言った方が適切だろうか。
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作者名：遠山すずか | 作成日時：2018年10月31日 10時
