ハロウィン３-祭りの喧騒の追憶５ ページ11
顔を上げて驚いた様な目を向けるホメロスに、Aは続けた。
「私よりホメロスの方が、お父様との思い出が沢山あるでしょう？私が物心ついて間もない頃に、お父様もお母様も亡くなってしまったから」
「……」
Aを静かな、だが真剣な瞳でホメロスは見つめ、諭す様に言った。
「羨ましいのは私も同じだ」
「え？」
意味が分かりかねて問う様にホメロスを見る。
「王妃が亡くなられてひと月ほど経った頃だったな。マルス殿が突然ライマ殿と陛下に謁見されたのは」
「マルス殿！ライマ殿！」
城の廊下を歩いていると、隣にいたグレイグが叫んだ。
「やあ、グレイグにホメロス！」
手を振って答えたマルスが、やや駆け足で２人に寄って来る。
少し遅れて妻ライマも追いついた。
「こんにちは、２人ともご機嫌いかが？」
「はい、頑張って訓練に励んでいます」
ホメロスははきはきと答えた。
「今日はお２人でどうなさったのですか？」
「ああ、今陛下に謁見してきたところなんだ！新しい家族ができたご報告にな」
マルスは心から幸せそうに、ライマを振り返る。
その時ライマの手元をはっきりと確認できた。
何やらお包みの様なものを抱えている。
「お前達にも紹介しておこう。娘のAだ」
マルスはライマから赤ん坊を受け取ると、ぎこちない、だが決して落としたりはすまいと力強く抱きかかえて２人によく見える様、腰をかがめて近づいた。
「わぁ、可愛い！」
「ああ、そうだな…」
グレイグの歓声に生返事をしながら、ホメロスは目の前の赤ん坊に見とれていた。
基本子供や赤ん坊は苦手で、王の娘のマルティナを見た時でさえ若干引きつってしまったくらいだ。
王はそんなホメロスを知っていたから、何の指摘も咎めもしてこなかったが。
「王妃を亡くされて間もないから正直心苦しかったが、温かくこの子の誕生を祝福してくださったんだ。将来はどんな形であれ、陛下のお力になってもらいたいものだな」
少し申し訳なさそうにマルスは話す。
そんな中今見ている赤ん坊は、一言、美しいと思った。
マルスとライマ、２人の血を引く証明の様に面影を持った上ではっきりした目鼻立ち。
透き通る様な白い肌に無垢に微笑む唇。
何故か目を逸らすのは勿体ない気がした。
「ほら、ホメロス！そんなに見ているとAがびっくりしてしまうぞ！」
グレイグに声と共に肩に手をかけられ、我に返って顔をあげる。
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作者名：遠山すずか | 作成日時：2018年10月31日 10時
