ディナーデート3 ページ34
「わざわざクリスマスでなくとも、望めば時間ぐらい作るぞ。むしろ私としては、私的な時間は全てお前と費やしたいのだが？」
ずいと顔を至近距離まで近づけられ、後ずさりながらも目を逸らす事のできないA。
ああ、悔しいなあ。私はこの不敵でいて優しい笑顔には本当に弱い。
ホメロスに主導権を握られかけながらも、どうにか本題を再び切り出す。
「そ、それじゃあクリスマスの日は、一緒に過ごしてくれる…？」
「ああ、勿論。何なら私の行きつけの店をディナーに予約しておこう」
「本当！？」
Aは満面の笑みを浮かべる。
その心から喜ぶ笑顔にホメロスは見とれたが、それに気づきはしなかった。
「嬉しいわ！それじゃあ楽しみにしているわね」
誰から見ても分かりやすく上機嫌な様子で廊下を去って行く背中を、ホメロスはいつまでも見つめていた。
「全く、自覚なしに俺を誘惑するのだから、質(たち)が悪すぎる」
コンコンと、Aの自室の扉を叩く音が響いた。
Aが入室を促すと、ガチャリと扉が開き、私服姿のホメロスが入ってくる。
「準備はできたか」
「ええ…ちゃんと着付けられているかしら？」
Aはホメロスから贈られたワンピースを身に着け、１周ターンしてみせた。
それを見たホメロスは目元を和らげて言った。
「ああ、問題ない」
その言葉にAはほっと胸をなでおろす。
何しろいつもは着る事のない、パーティードレスと間違えてもおかしくない代物なのだ。
ホメロスの普段着は基本上質なものだが、今日はまた一段とランクが上がっているのがAの目にも分かった。
彼自身が好む白いシャツは糊がしっかりと効いており、デザイン、材質共に洗練されている。
上に羽織るのはシャツ同様純白のピカレスクコートに、下は深い土色のズボン。
加えてそれを身に纏っているのがデルカダールきっての麗人と言う事もあり、衣装の魅力を更に引き出していた。
「では、行こう」
「…はい」
滅多に見せない紳士的なエスコートに胸をときめかせながらも、差し出された手を取る。
剣を持つとは思えないしなやかな手のひらが、優しく包み込んだ。
少し気恥ずかしく思い、それから自分の手が気になり始めた。
「どうかしたか？」
「あ、ううん、何でもない」
言っても仕方のない事だとすぐ考えなおしたが、ホメロスはあっさりと言い当てた。
「自分の手がごついとか荒れていないかとか気にしているのか？」
Aは顔を真っ赤にして頷く。
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作者名：遠山すずか | 作成日時：2018年10月31日 10時
