海底王国奇譚８ ページ21
それからしばらく、Aにとっては何の変哲もないものが視界の横から横へ抜けて行き、ある１点のところでぴたりと止まった。
「え、これって…」
「大砲の様だな」
いつの間にかAの隣には見覚えのある目つきの悪い白い魚…もといホメロスの姿があった。
「見たところデルカダールで使っている大砲と同じものの様だ。恐らくナギムナー村産だろう」
「そうか、そう言えば大分昔、デルカダールとの交流があったんだったわね」
「ああ、今は全くと言っていいほどないが、大砲にまつわる歴史は古い。献上されてから久しいと言うのに未だに衰えを見せぬ。造りが良い証だ」
Aはホメロスの言葉に頷くと、改めて展示されている大砲を見つめた。
「それにしても、まさか大砲まで展示されているなんてね。この国の地上への好奇心ってホントに凄いのねぇ…」
「こちらは勇者様が持ってきてくださったタコツボでございます！」
博物館を見回っていた館長が、説明しながらすいっとAとホメロスの元へ泳いでくる。
「イレブン…勇者達が、ですか？」
って言うかタコツボって…心の中でツッコミを入れる。
「はい！聴覚が震える程の爆音を発し、人魚がすっぽり入る素晴らしい恐ろしくも素晴らしい代物なのですよ」
意気揚々と大砲を語る館長に頷き返しながら横目で注目の大砲を見やる。
まあ人魚は細身だし、筒に入る事は不可能ではないだろうが。
海中で発射される事は恐らくないとは言え、入った人魚がいたのだろうかとAは甚だ疑問に思ったのだった。
「いやはや、人間世界とは複雑怪奇。何十年何百年と研究を続けてもわからないことだらけでありますな。だからこそ研究しがいがあると言うもの。我らムウレア国立博物館の職員一同は、これからも地上の謎に挑み続けますぞ」
子供の様に無邪気に目を輝かせる(年齢不詳だが子供ではあるまい)館長に別れを告げ、Aとホメロスは博物館を後にする。
しばらく辺りを遊泳し、途中沈没船を見つけて気になり、そこへも立ち寄った。
そこはムウレアの裁判所となっており、海の民が本魚に無許可でかじりつき、それについての裁判が行われていたとの事だった。
裁判長の人魚から聞いたのだが、海の世界では隣人は友であり、師であり、時に食料であると言う言葉があるらしい。
どうやら魚たちは、海の民に必要とされればいつでも食べられる覚悟はできている様だった。
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作者名：遠山すずか | 作成日時：2018年10月31日 10時
