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現在編13−疑惑2 デルカダール城− ページ21

「嫌な天気」

窓から外を見たAは、ひとり呟いた。

空には一面厚い雲が立ち込めており、一点の青空も見つけられなかった。
更に言えば、雲の色は酷く濃く暗く、重病人の顔色の様な紫色にさえ見える。
窓から視線を外し、元来の進行方向へ戻したAは、一瞬ぎくりと立ち止まる。

デルカダール王と、それに付き従いやや後方を歩いてくるホメロスの姿が見えたのだ。
慌てて通路の脇により、王とその従者に進路を譲る。もちろん敬礼も忘れない。
王は利き手を両胸に並行させて頭を下げたAの元に立ち止まり、労りの言葉をかけた。

「Aよ、身体はもうよいのか」
「恐れ入ります、陛下。順調に回復致しました。平素の任務も差し支えございません」

自分の体調を気遣うのは有難いが、やはり苦手意識は拭えない。
シケスビア雪原にひとりきりで立たされた上、吹雪の重圧に押しつぶされる様な感覚を覚える。

「うむ、そなたの手腕期待しておるぞ。のう、ホメロスよ」

ホメロスの名を聞き一瞬動揺するが、顔を伏せたままであったため、取り繕うのは難しくはなかった。

「はい、女でありながら栄光あるこのデルカダール重装兵にも引けを取らぬほどまでに成長しております。師である私としても誇らしい限り。だがA、体調を崩すのは己の心に隙がある証、更に鍛錬を重ねる事だ」
「……はい、申し訳ありません、ホメロス将軍」

誰のせいだと思っている。

あの夜ホメロスに掴まれた右腕――今は小手を着けている――の疼きと共に、そう叫びたい衝動を抑える。

デルカダール王とホメロスが前を通り過ぎるのを待ち、顔を上げた。

あれから最後まで行為は滞りなく行われ、Aの純潔はホメロスに奪われてしまった。
おかげで翌朝までホメロスの私室で過ごす事を余儀なくされ、幸い誰にも目撃される事なく自分の部屋に戻れたのはよかったが、更に翌日体調を崩し、2日ほど寝込む羽目になったのである。

別に頑なに貞操を守り続けてきた訳ではないが、一回り近くも歳の離れた相手と、更に言えば自分の師と言える相手と身体を重ねてしまった事にAは衝撃を覚えていた。
同時に、いつも冷静沈着なホメロスがなぜ激情に任せるまま自分を抱くような事をしたのかと疑問に思う。

ダーハルーネでの事を訊かれたくなくて、先手を打ったのだろうか、とも考えた。
そうしてAがホメロス自身から遠ざかる様にと。

現在編14−疑惑2 デルカダール城−→←現在編12−軍師の私室にて―



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遠山すずか(プロフ) - りぃんさん» りぃん様、最後まで読んでいただきありがとうございました!またお気遣いのお言葉も、本当に嬉しく思います。短編の方も頑張って更新していきますので、またよろしくお願いいたします。 (2018年5月25日 16時) (レス) id: 1a8ae502d9 (このIDを非表示/違反報告)
りぃん(プロフ) - 完結おめでとうございます!お体を優先に気長に短編お待ちしております。本当に大好きな作品でした。 (2018年5月25日 16時) (レス) id: 7ca0ccb51c (このIDを非表示/違反報告)
遠山すずか(プロフ) - りぃんさん» りぃん様、コメントありがとうございます。ホメロスへの救い欲しさが募り、この連載の執筆に至りました。楽しみにして頂いているとの事、とても嬉しいです!頑張って更新していきたいと思います。これからもよろしくお願いします。 (2018年5月14日 10時) (レス) id: 1a8ae502d9 (このIDを非表示/違反報告)
りぃん(プロフ) - 初コメ失礼します。この小説とても楽しみに読ませて頂いてます!更新頑張ってください! (2018年5月14日 10時) (レス) id: 7ca0ccb51c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:遠山すずか | 作成日時:2018年4月26日 18時

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