現在編１８−地下牢での追憶― ページ26
『やだ・・・っ、やだよぉ、マルティナぁっ』
友を失いむせび泣く少女の声。
それを支える不器用ながらも優しい大きな手。
その温もりに少女の目からは更に涙がこぼれる――――
「マルティナ・・・」
自分の呟きが辺りに妙に響き渡り、Aは目を覚ました。
「気がついたか」
「え？」
不意に響いた思わぬ人物の声で、霞んでいた視界が鮮明に開けていく。
目の前には顔色が良いとは言えないホメロスが、Aを見下ろしていた。
更に肩部に自分以外の体温を感じて目線を横に向けると、白い皮手袋に包まれたホメロスの手。
あちらこちらを見渡し、何やら薄暗い場所でホメロスに抱きかかえられているのが分かった。
「あ・・・」
「また16年前の夢を見ていたのか。泣いていたぞ。あの時の様に」
ホメロスの言葉に、16年間封印してきた記憶がよみがえる。
あの時、マルティナを失い、悲しくて、認めたくなくてAはホメロスに抱き着いて泣いた。
ホメロスは困りながらも、幼いAを泣き疲れて眠るまで、抱きしめてくれたのだ。
この事があって、Aはホメロスを冷酷だと思いきれなかったのだ。
暖かい記憶にしばし浸る。だが同時に奇妙な既視感にも襲われた。
その時だけではない、以前―――遥か遡るくらい前にもこの様な事があった気がする。
しばし考え込んだがその違和感が氷解する事はなく、あきらめて思考を切り替えて辺りを見回す。
気を失う直前にデルカダール王に言われた言葉通り、地下牢にいるらしいのが分かった。
それも最下層に。
なるほど。ホメロス同様重罪人の扱いなわけだ。
閉じ込められているのは、かつて悪魔の子――いや、勇者イレブンを閉じ込めた場所。
目を凝らしてみれば、向いの牢には逃亡の際に掘ったとみられる穴がご丁寧に残されていた。
「なぜ、私を庇った？」
ためらいがちにAに問うホメロスの声が牢内に響き渡った。
まっすぐホメロスを見つめ、Aは答える。
「半分は大樹で陛下に申し上げた通りよ。もう半分は・・・私自身貴方に死んでほしくなかったから、だと思う」
「・・・なるほどな」
目を逸らしながらやや自嘲ぎみに、ホメロスが笑うのがわかった。
「だがお前が私に死んでほしくなかったと言うのは腑に落ちぬ。お前、怒ってはいないのか？」
どうやら「なるほど」と言っていたのは前半に対してのみだったらしい。
怒ってはいないのかと問われた事が何なのかすぐ思い当たり、反論した。
現在編１９−地下牢での告白―→←現在編１７−命の大樹にて 救命―
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遠山すずか(プロフ) - りぃんさん» りぃん様、最後まで読んでいただきありがとうございました！またお気遣いのお言葉も、本当に嬉しく思います。短編の方も頑張って更新していきますので、またよろしくお願いいたします。 (2018年5月25日 16時) (
レス) id: 1a8ae502d9 (このIDを非表示/違反報告)
りぃん(プロフ) - 完結おめでとうございます！お体を優先に気長に短編お待ちしております。本当に大好きな作品でした。 (2018年5月25日 16時) (レス) id: 7ca0ccb51c (このIDを非表示/違反報告)
遠山すずか(プロフ) - りぃんさん» りぃん様、コメントありがとうございます。ホメロスへの救い欲しさが募り、この連載の執筆に至りました。楽しみにして頂いているとの事、とても嬉しいです！頑張って更新していきたいと思います。これからもよろしくお願いします。 (2018年5月14日 10時) (レス) id: 1a8ae502d9 (このIDを非表示/違反報告)
りぃん(プロフ) - 初コメ失礼します。この小説とても楽しみに読ませて頂いてます！更新頑張ってください！ (2018年5月14日 10時) (レス) id: 7ca0ccb51c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：遠山すずか | 作成日時：2018年4月26日 18時
