優しさの引き出し方 1 HC ページ10
「…っぶな」
「はあっ！ごめんなさいっ！」
「持つよ。どこ？」
エレベーターがいっぱいで珍しく階段を使って1フロアだけ上がっていると、上から人が落ちてきた。
その女性は両手に荷物をバカみたいに抱えてて、足元が見えなくてすぐ後ろの俺に倒れてきた。
うまく俺の胸に収まるように落ちてきた彼女を支えると、後ろから抱きしめているみたいな形になる。
あ、いい匂い…
しかし俺が踊り場に立ってたからいいものの、俺も階段の途中にいたら一緒に落ちてたな。
「いや、そんな、悪いです！自分で持ちます！！」
「こんなフラフラしてんのにほっとけないし。ほら、どこ行くの？」
「いや、ほんと、申し訳ない、いいです！」
「しつこい。早く、どこに持っていくの。じゃなかったら俺がこれを女性一人に持たせたやつに文句言いに行く」
「あ、それはダメです！…
えっと…6階の会議室7です…」
「まだあと2フロアも上がるつもりだったのか…ほら、行くぞ」
初めて見た人間になんでここまで親切にするのか俺自身が一番驚いてるけど、彼女の両手からぶんどった大量の荷物を抱えて階段を上がる。
「ごめん、ちょっとドア開けて」
「あ、はい、そうですよね！すいません！」
「いや、それ、引こうよ。」
「あ、そっか！すいません！」
何この人。引く扉を必死で押してさ、それを指摘したら顔を真っ赤にしてさ。面白い。
「あっ、ごめん、拾って」
「あ、すいません。やっぱり持ちます！」
「ここまで来てまだ言う？黙って案内して」
「はい…」
階段室から出る時に壁に当たって荷物が落ちて、それを拾い上げた彼女はまだ困った顔で眉を下げている。
「ねえ、その顔なんとかしなよ。俺が勝手にやるって言ってんだから、気にしなくていい」
「でも…」
「ほら、早くドア開けて」
「は、はいっ！」
彼女が焦って動く度にフワッと香る匂いに、つい引き寄せられる。
キツい香水の香りは苦手だけど、彼女からは優しくて落ち着く香りがする。
って、俺は変態か？
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作者名：ゆちぇ | 作成日時：2014年7月13日 10時
