溶け残った深い藍【FGO】【クー・フーリン・オルタ】

#8-1…届かない手(立香side) ページ38

各自最終確認を終えた後、
遂に作戦の始まりの時が来た。

緊張は尽きない。
俺は令呪による魔力のバックアップしか出来ないし、
自衛の手段も無いから後方で見守ることしかできないのがとても歯痒いけれど、
見届けなければいけないことを自覚しているから、
集中しなければ。



マシュもオルタも、
令呪を通して昂っていることがわかる。
不意に、


「今行く。」


短く覚悟の声が聞こえて。



作戦通りにオルタとミーシャが特攻を開始した。



接近する“今を征くモノ”を感知した“過去を覧るモノ”が、
夢を、歪んだ平穏を壊させまいと赭黒い触手を伸ばす。

しかし、オルタ達は軽々とそれを躱し、
塊の中心に攻撃した。


呻く様な低い音が地面を震わせる。
心臓が痛い。
まるで四方八方から大太鼓が至近距離で叩かれている様で、
俺は膝をつきそうになるけれど、
皆立って戦っているから、俺だけ楽をする訳には行かない。


地を踏みしめ、もう一度しっかり前を見据える。


槍を突き立てられたアノ塊は、
先程オルタを吹き飛ばしたのと全く同じ帯を放出した。
しかし、その帯は相手を吹き飛ばす為のもの故に、
軽く速いせいで、硬さは殆どない。

靭性を優先したその帯は、オルタに簡単に躱され、ミーシャによって簡単に蹴散らされた。


攻撃された箇所からボコボコ泡立ちと再生をしていくアノ塊は、
増えている様に見えて次々に切除されていく為、
じりじりとその量を減らしている。




このまま削りきって、Aさんの身体を取り返せるのでは。



そんな甘いことを考えてしまう程、
事は順調に進んでいた。



それで終わるはずがない。
幾月も彼女のセカイで醸成されてきた情念が、
そう簡単に尽きる筈がない。




不意に、ソレが収縮した。









濃く


深く


黒く








光った。


明滅を繰り返し




【Trí


Dhá


Amháin




Nialas】







何かを数える様な
愉しげな、でもひび割れた声が聴こえて、



一瞬でさっきよりも何倍も、何十倍も、何千倍、それよりも大きな呪いをぶちまけながら、




表層に船首の守り神の様にAさんの身体を携えたソレは、





俺たちを嘲る様に悠々と空間を漂っていた。

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