溶け残った深い藍【FGO】【クー・フーリン・オルタ】 (ページ25)

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#3-5…徒花の願い事ページ25

ミーシャさんが向こうを向いて動かなくなってしまったのが不安で、

「向こうに、何かあるんですか？」

と、彼女の思い出であろうもので雑然とした空間を見渡した。

周りには、いつかのバレンタインで先輩が貰ったものと酷似したプレゼントや、
マスターになる前に使っていたと思われる鏡台や本棚、
そこから溢れた本や雑誌の積み重なった山など、
彼女の大切だったものが全てここに置いてあった。

しかし、奥にはもう一枚天蓋が何もない場所から垂れていて、
うっすらと何かの影が見えるくらいだった。

ミーシャさんの藤色は、じっとそこを静かに見つめていた。

『……あそこには、ドクターが居る。』

薄く口を開いて、おもむろにミーシャさんは呟いた。
その声は、どこか懐かしそうで、寂しそうだった。
重く低く響く声は、いつのまにか鈴のなるような彼女の本来のものになっていた。

「……え？」

驚きで思考が吹き飛んでしまったから、
私の口からはそんな気の抜けた声しか出てこなかった。

「でも、そちらのドクターは…」

『君の言いたいことは分かるよ。
確かに彼は完全に消滅した。
私みたいに世界の裏に逃げるんじゃなく、
魂の一片まで綺麗に、ね。
でも、確かにそこにドクターはいるんだよ。
あの帳は必要な時に開く。
それまで彼はあそこで眠ってるんだよ。』

いなくなるその時まで徹夜してたから、その分取り戻してるのかもね。

そんな冗談を言っていたけれど、
やっぱり少し寂しそうに見えた。

「……そういえば、どうして私はここに来られたんでしょうか。
大切な物をかき集めたこの空間に、
面識もなく、況してやここに始めてきたというのに…。」

暗い空気が嫌になって、私は違う話題を提示した。
帳を隔てた先の思い出から、少しだけ目を逸らして欲しかった。

彼女は目線を戻さずに、私に答えを告げた。

『ほら、さっきも言ったじゃない。
私は【マシュ・キリエライト】という存在の可能性の一部だって。
だから、私が君の断片だと言い方を変えれば、
私の大元である君の存在も彼女には大切な物になる。

私はそれを期待して、君をここに引きずり込んだ。』

犯人はミーシャさんだった。