足りない私。認める貴方。【テニプリ】【忍足侑士】 (ページ9)

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◇第7話ページ9

前方にデカいマンションが見えてきた。多分あれのことだろう。

「あの、どうして助けてくれたんですか？」

されるがまま運ばれていた八重薙が振り向いてふと聞いてきた。

「ん？さっきも言ったろ？困ってる奴がいんのに助けねえのは激ダサだからだ。」

「なんか、カッコいいですね。」

「そうか？当たり前だと思うぜ。逆にほっとく奴の気が知れねえよ。」

当たり前のことだと言うのに、尊敬を滲ませた目で見られた。
ちょっとこそばゆいな。

「…テニス部の方って皆さん優しいんですか？
忍足先輩も、宍戸先輩みたいに助けてくれたんです。
1人ぼっちでつまらなかったのに、ふっと来て話を聞いてくれて。
車椅子テニスをやってるの、すごいって言ってくれたんです。
片っぽだけの足も、綺麗だって言ってくれて。
本当に、すごく嬉しかったんです。」

そう言って八重薙は顔を赤くした。
きっとこいつは褒められてこなかったんだろう。
できるのが当たり前と言われてきたか、それとも、称賛に耳を貸す暇もなかったか。
きっと、後者だ。じゃなきゃ軽く流して終わるはずだ。
うちの部員にも何人かいるから分かる。
いつか全員に会わせてみたいな。この面倒の見がいのある後輩を。

「まあ何人か面倒くさいのはいるが、基本皆頑張ってる奴には好意的だぜ。
俺もお前がテニスやってるとこ見てねえけど頑張ってるのはよく分かる。
腕の筋肉の付け方が最高だ。背筋も良いし。よく鍛えてるな。」

「…あ、ありがとうございます。」

蚊の鳴くような声で礼を言って真っ赤になった八重薙は耳たぶを少しいじった。
キャパオーバーするとそうなるのか。
面倒の見がいだけじゃなくて弄りがいもあるな。
明日忍足に教えてやろう。

「あの、ここです。」

「ん？おう。」

足を止めたのはやはりさっきから見えたマンションだった。

「上まで送るか？」

「いえ、そこまでしていただくわけにはいきません！本当にありがとうございました。
迂回することになっていたら倍の時間がかかってしまうので本当に助かりました！」

「なら良いんだけどよ。」

深く下げられた八重薙の頭をひと撫でして俺は帰ろうとしたが、
一つ言い忘れてたことを思い出した。

「そうだ、いつかウチの部活見にきたらどうだ？見がいはあると思うぜ。」

「…！絶対時間作ります！」

八重薙は目を輝かせて言った。あれはテニス馬鹿の目だ。
良かった、あれなら下心も何もねえな。
純粋に恋もテニスも応援できるってもんだ。