【GL】もしも彼女が悪役だったら。 (ページ14)

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12話ページ14

｢磬が全然帰ってこないから父さん心配してるよ。父さんが嫌いなのは分かるけど少しだけでも顔出してあげたら？｣

そういう早苗聡(さとし)さんは、私の目の前に座る磬の隣にまで移動すると、目を細め彼女の頭を優しく撫でる。
仲が良いんだろうな、と一瞬思うが兄が優しいだけなんだろう。そう思った。磬が嫌そうな表情を見せているから。

｢……今日はバイト｣

磬がそう言うとお兄さんは、はぁっと呆れたようにあからさまにため息をつく。そして、お兄さんは私の方へと視線を移すと優しく微笑む。

｢名前なんて言うの？｣
｢えっと、西岡楪です｣
｢楪ちゃんかぁ。妹がお世話になってるね｣
｢いえいえ……、そんな……｣
｢少し不器用なところがあるけど、そんな所も含めて仲良くしてあげてね｣

軽くウインクをしてそう言うお兄さんに危うく心を奪われそうになる。……なるほど、この爽やかさが女子人気の秘密か。

｢それじゃあ、家で待ってるから｣

それだけ言うと、お兄さんはばいばいと手を振って教室から去った。そして教室に少しの間、沈黙が流れる。

｢……帰るの？｣
｢まあ、あれだけ言われたらね｣

今日は、バイトはなかったらしく。お兄さんといたときの磬は機嫌が悪そうだったが、そのお兄さんがいなくなるとやっぱりいつもの磬。磬は、家族と仲が悪いのかな。

｢兄弟揃って綺麗で羨ましーなー｣
｢別にそんなんじゃじゃない｣

そう言って謙遜する磬。しかし当の磬はどこか悲しげな目をしていて。

｢兄さんは、私と違って誰からも好かれる……｣

寂しげに言う磬は、いつものように綺麗だけどどこか不幸そうな雰囲気で。そんな磬を見ると、私は胸がキュッと締めつけられるように苦しくなる。

｢私は、磬のこと好きだよ｣
｢私、もっと磬のこと知りたい｣

磬は少し寂しげな表情を見せたまま私に微笑んでくれる。

｢じゃあ、私のこと全部知るまで絶対離れられないね｣
｢うん。だから、｣

私はスカートのポケットに手を突っ込むと、中に入っていたその物体を握り、彼女の前へと手を出す。そして私は、手にしていたニコちゃんマークのピンを彼女へと手渡す。
すると磬はじーっとそれをガン見。

｢……個性的でいいと思う｣
｢え、嫌だった……！？｣

私がそう言うと磬は、寂しげな表情を見せることなく私に向けて微笑んでくれた。

｢ありがとう。大事にする｣

そう言って、そのピンを前髪へと身につけたのだった。