花屋 ページ7
花粉の酷い今日この頃。
私は、体の弱いおばあちゃんに変わって小さい頃からよく花屋として、沢山の人にお花を差し上げてきた。沢山のお花で幸せになってきたお客さん達をこの目で見ているので、そのおかげで私はお花大好き人間になってしまった。
と、いつものように水やりをしていると、入口付近から聞き慣れた声が聞こえる。
「今日もご勤めご苦労様」
この人は、昔からの常連客である絵里香さん。もう30歳近くになるというのだが、全くその雰囲気はアラサーというモノではなく、とても綺麗で透明感のある人。
私が小学生のときに初めてこの目で見たとき、一目惚れしたのを覚えている。
「今日はどんなお花をお探しですか?」
絵里香さんが少し屈みながら色んなお花を見て回っていることに気付き、私はいつものようにそう問いかける。
今どき、母の日等のイベント以外で来てくれるお客さんは減ってきているのだが、絵里香さんは昔から変わらず通いに来てくれている。それが嬉しくて、でも結局はお客と店員という壁をそう簡単に乗り越えられることが出来ずにどこか切ない気持ちもある。
「好きな人にあげるお花が欲しくてね」
ーーーあぁ、やっぱり。
その言葉を聞いた瞬間、心臓がズキズキと痛んだ。お客と店員という壁だけではなく、社会人と学生、女性と女性という大きな壁もある中で私のこの恋が叶うはずもないとどこか諦めかけていた部分もあった。でも、会う度に好きになってしまう私はおかしかったのかもしれない。
「……好きな人、ですか」
震える声を必死に抑えるが、その動揺は絵里香さんにまで伝わってしまったらしい。
「どうかした?」と。私は「……いえ」と話を逸らし、好きな人にあげるぴったりのお花を少し離れたところから持ってくる。絵里香さんは「これは?」と、いつものように問いかける。
「これは、黄色のヒヤシリス。花言葉は貴方となら幸せ、です」
いつか私もこのお花を貰いたいと夢見ていたのを懐かしく思い出しながら、絵里香さんに差し出す。
絵里香さんはそのお花を手で持つと、少しの間そのお花を見つめていた。
「へえ。素敵だね……」
絵里香さんはそう小さく呟くと、さっきとは違った恋する乙女のように優しげに微笑んだ。その笑みがまた私の心臓をギュッと締め付けた。
「ありがとう。これ、買っていくよ」
そう言うと、絵里香さんは「んじゃ、お会計お願いね」と私にニコッと微笑んだ。
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読み漁り文々(プロフ) - 好きです~!百合のふわふわした感じが伝わってきます、、 (2020年7月27日 19時) (レス) id: 38e11e6f87 (このIDを非表示/違反報告)
奏 - 雪見だいふくさん» お話、全部面白くて可愛くて好きです!更新頑張って下さい! (2020年5月5日 23時) (レス) id: 990e5cc797 (このIDを非表示/違反報告)
雪見だいふく(プロフ) - 奏さん» コメントありがとうございます〜!是非お話にしてみますね〜! (2020年5月4日 18時) (レス) id: 26dbbe1ca5 (このIDを非表示/違反報告)
奏 - 性悪生徒の先生の嫉妬が見たいです。平気ですか? (2020年5月4日 11時) (レス) id: 990e5cc797 (このIDを非表示/違反報告)
そら - 雪見だいふくさん» あざます!!!!!!! (2020年5月1日 7時) (レス) id: 6770d884cb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雪見だいふく | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/mayu02071/
作成日時:2020年3月13日 8時