私の宝物入れ【ky】【短・中編集】 (ページ27)

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これまで以上の今をページ27

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『かわいくないよな、ほんと』

背後からボソッと呟くように聞こえ、思わず玄関への歩みを止めた。
別に彼氏から可愛いと褒められたい年齢はとうに過ぎたし、そういう可愛さではないということは重々承知している。

振り返ると、さっきの言葉なんて無かったような優しい顔をして『ごめんごめん』と財布を手に立ち上がるキヨの姿が目に入った。

俺がいなくてもいいよね
Aは一人で生きていけるよ
もっと、大切にしてほしかった

これまでの彼氏に言われた言葉が全て蘇ってきた。

かわいくない。

可愛くない、ではなくてかわいくない。
容姿のことじゃない。
私の言動がかわいくない。私自体がかわいくない。

分かってた。そんなことは自分が一番。
じゃあなんでまた同じことを言われたのか。
今回こそは大事にしたかったし、比較的かわいくあろうと努力はしてきたはずだった。
だから今までで一番関係が続いたのは、私の努力が実を結んだからだと思っていた。

可愛いじゃなくてかわいいと。言ってもらいたかったから。

『俺も行くから』

「どうせ、私はかわいくないよ」

『は？』

「一人で、いい。大丈夫です。気が変わったから。誘わなきゃ良かったね」

『や、ちょっと待てよ』

止める声も聞かず、踵を返して玄関へ急ぐ。
私を追いかける足音がするから、大きい声で「やめて」と言った。

「ごめん。今一緒に居たくない」

そう言った直後に沈黙が流れ、あ、とすぐに後悔した。
私、また、かわいくないことを。
それでももう引き返すことは出来なくて、足早にその場を去った。

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本当に些細な事だった。
年末年始を二人で過ごせることをキヨから聞いたとき、とても嬉しくて。
既にこれまでも二回過ごしているわけだから、特別なことではなかったんだけど。
それでもまたキヨとこの時期を迎えられたということが、顔には出さずとも私のテンションを上げた。

今年は頑張っておせちを作ろうと決めていたけど、材料がいくつか足りなかった。
それに鏡餅だって買ってないし、年越しそばの準備も忙しくて出来ていなかったから、一緒に買いに行こうとキヨを誘ったのだ。

でもキヨは特番の録画予約に精を出していて、えー、と渋られた。

別に一人でも問題はなかった。
しつこくして迷惑がられる方が嫌だったから、じゃあ一人で行くよとあっさり降りた私。

それがどうやら、かわいくなかったそうだ。

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