23 コーヒーの毒 ページ25
「っ、たった一発だけで、勝ったつもり…?」
「エミさん!」
地面に落ちた体は、言うことを聞いてくれない。
すぐ後ろに敵が迫って来ていることは分かっている。
ゾムが助けようとして撃った弾は鉄の壁に弾かれてしまった。
俺には何もできない。
風を切る音を間近に感じながら、目を閉じた。
「死んで」
「君は、このコーヒーの量を無限大と考えるかい?」
偽者の彼女がやって来たとき、俺はある会話を思い出した。
本物の彼女、Aが卒業して俺の部屋にやってきた時の、最後に交わした会話だ。
「…分かりませんが、このコーヒーが泥水だということは分かります」
「…私のコーヒーがそんなに嫌いなのか?」
「まるで毒です」
「私にとっては薬だよ」
「人間の役に立つ毒のことを、薬って言うんしょう?」
「その通りさ」
「……私、毒を飲みたくないです」
「それは個人の自由だよ。強制はしないさ」
「…じゃあ、一口」
「強制はしないと…」
「まっず」
「……そうかい」
俺は怒るわけでもなく、ただ笑った。
しかめっ面でコーヒーを飲む彼女は、今まで見た中で一番彼女らしかった。
初めて飲んでくれたコーヒーの感想がそんなものなんて、少し寂しいが、それで良かったと思った。
「このコーヒー、コップに毒が塗られてますね?」
「…は?」
「私はこれからそう思って、貴方のコーヒーに触れないようにします」
「え、どういう」
「さようなら」
その日以来、彼女が俺の部屋に来ることはなかった。
最後に交わしたこの会話の意味は、正直よく分からなかった。
今思えば、彼女はコーヒーを俺自身だと表現し、もう俺には関わらないということを伝えたかったのかもしれない。
少し前までは薬だった俺が、暗殺者になった彼女にとっては毒になってしまった、ということなのだろうか。
…いや、考え過ぎかな。
会話の内容すら曖昧なぐらい前の話だから、真実は分からない。
その会話を思い出したから、俺は偽者の彼女が来たときに、こっそりそのコップに毒を仕込んでいた。
狙い通り、彼女はコップに触れてくれた。
ゾムに伝えた「手は打っている」とはこういうことだ。
「っ…!?」
背後から、敵の喉が締まる音がする。
やっと効いてくれたか。
あれは猛毒なのだが、如何せん効果が出るまでが遅い。
どう足掻いても、彼女の死はもう確定した。
「……ころ、す…!」
その言葉の途中で、血を吐く音が聞こえる。
そして、体が倒れる音が続いた。
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みょん - 夢主ちゃん五感を消すどころか操っちゃった (2019年8月26日 15時) (レス) id: 58ac6e7e16 (このIDを非表示/違反報告)
フール(プロフ) - ひよっ子さん» ご感想ありがとうございます!頑張ります! (2019年3月17日 19時) (レス) id: baf0519c25 (このIDを非表示/違反報告)
ひよっ子 - 主人公ちゃんの悲しい過去など とりあえず全部面白いです これからも頑張ってください!!(≧∀≦) (2019年3月17日 18時) (レス) id: a20f220c99 (このIDを非表示/違反報告)
フール(プロフ) - 兎危@ファンマークは子兎さん» チノ氏のキャラがまだ定まってないので探り探りですが…。これからも結構登場させるつもりです。 (2019年3月17日 9時) (レス) id: baf0519c25 (このIDを非表示/違反報告)
兎危@ファンマークは子兎 - ち、チノ氏…!?!?まさか、チノ氏を書いてる人が居たなんて……!感激ですううううう(新人組推し) (2019年3月17日 9時) (レス) id: 029d2a2f18 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:フール | 作成日時:2019年3月15日 17時