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『ぅ、……さ、』
「A?」
『とう、さま…』
ざわ、と肌が粟立つ。
『っ、あ…ちがう…違う!、私は…!』
混乱するAを抱き締めて、牙を穿つ。
大きく身体を揺らした彼女は俺のベストを握り締めた。
『ぅ、、ぁ…!』
熱に浮かされたような声に、更に深く牙を埋める。俺を認識させるように。
やがて、ぐたりと力を失った身体が俺の方へともたれかかってきた。
『…。……荒療治、ですねぇ…』
「すまない」
疲れたような掠れた声が胸元から響き、Aは顔を上げた。
彼女の瞳は真紅に戻っていて、翼もほろほろと消え去る。
『あー、でも助かりました。ちょっとまずかったので』
「真祖に会ったか」
『精神世界に引き摺り込まれて噛まれました。最悪』
嫌そうな顔でAは自身の首元を触っていた。
「そこに噛まれたのか」
『ぃ!?』
頷くのを見るや否や俺もそこに噛みついた。
精神世界とはいえ、真祖とはいえ男にAの柔肌に牙を穿たれたのは嫌だからな。上書きしなければ。
『んっ、』
深く、深く牙を穿つ。溢れ出る血を余すことなく啜りとる。
『っは、ぁ…っ!』
快楽を感じているのだろう。色のついた声がAの口から零れ落ちる。その声をもっと聞きたくて、ゆっくりと丹念に、感じるようにじっくりと甘い血を啜る。
『ん…ウルド、!もう…っ、』
ぐい、と服を引っ張られて漸く口を離す。
ぐったりとしたAを抱き留め、見下ろせば恨めしそうな目で睨め付けられた。
『ひどい』
「他のやつに牙を穿たれたからな」
『精神世界なんですけど』
「変わらん」
『えぇ…』
はぁ、と溜め息を吐いたAを抱き上げる。バランスを取ろうとした彼女が慌てて俺の首元に腕を回した。
「うっわ。なんだこれ」
「なんでこんなところに羽根が」
と、そこへルクとレストがやって来る。
「何やってんだよA」
『血を吸われたんですよしんどい貧血』
「あとで血をやる」
『いま』
「、」
『今ください』
そう言ったと当時にウルドの首筋に噛み付いた。
それに一瞬彼は息を呑んだが、小さく息を吐くとゆったりとした手つきで私の頭を撫でる。
ジュルジュルと音を立てて、彼の甘美で濃厚な血を味わう。
満たされる渇きと飢え。
無くなったものが戻ってくるような感覚。
朧げだった意識がクリアになってゆく。
『っぷは、』
と、牙を抜き唇についた血をぺろりと舐め取る。
ああ、美味しかった。
満たされる吸血欲。
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作者名:クウ | 作成日時:2023年4月5日 20時