５１ ページ1
「A…」
彼女が去っていった扉を見つめる。その後ろ姿は、かつてのように他人を拒絶していた。
「クルル・ツェペシ」
「…嘘じゃないわよ。あの子は紛れもなく真祖の子だもの」
「ラファエラとはなんだ」
それはAだと言った。真祖が愛したセラフだと。
だが彼女はそれを知らないようだった。そんなものはいなかったと。
「真祖が愛した二人のセラフの内の一人。この世界の《物語》を知り、そして壊すことが出来る存在」
「…」
「あの子は自覚してないようだったけれど、でも…Aはやがて選ばなくてはいけなくなるわ」
「選ぶ？」
「貴方のことを選ぶかしら？それとも真祖を取るのかしら？」
「どういうことだ」
「あの子が覚醒したら、あの子の本性が牙を剥くのよ」
「本性？」
「言ったでしょう？彼女は《破壊者》だと」
眉根を寄せる俺にクルルは言葉を続ける。
「彼女の性よ。あの子は壊すことに特化してる。…目覚めれば、私たちでも危ういくらいの力を持ってるわ」
「馬鹿な…あいつは精々第九位か八位かだろ」
「そうですよ。俺らには及ばないはずです」
「あの子が普通の吸血鬼でないことはもう分かったはずだけど」
「…セラフの力か」
「ええ、そう。…どうするの、ウルド」
クルルが試すように俺を見上げる。
「今のうちに、首輪をつけておいた方がいいんじゃない？」
「…」
「もしも、万が一あの子が貴方の手を離すようなことがあったなら…貴方は耐えられるの？」
耐えられるか？
…耐えられるわけがないだろう。漸く手にした存在を、手放せるわけがない。
「Aが私を裏切るわけがない」
「何故そう言い切れるの？あの子が真祖と過ごした時間を思い出せば、貴方のことを切り捨てるかもしれないじゃない」
「…そんなことは、ありえない」
「あの子が一番強く持つ、その感情はなんだったかしら？」
ああ…そういうことか。
Aにとって一番強い感情、執着は《愛情》だ。つまり、もし本当に彼女がセラフなら真祖に対してそういう感情を抱くかもしれないと。そして、彼を選ぶと。
「簡単に揺さぶられるわよ」
その言葉が重くのしかかった。
「いやぁ〜」
そこでルクが口を開く。
「クルル様も舐めてますよねぇ？ウルド様とAのこと」
「どういう意味だ」
彼はおかしそうに、だが強気に笑う。
「Aがウルド様から離れるわけないですよ。あいつ、あー見えてすっげーウルド様のこと大好きですから♪」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 140人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：クウ | 作成日時：2023年4月5日 20時
