異能力に求婚されています⑤【文スト】 (ページ50)

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＊運命ページ50

××

私は自惚れ過ぎていたのだと思う。
泉さんのような戦闘能力もなく、ルーシーさんのような彼らを守れる能力を持たない私が、最初から中島先輩の隣に立てるわけがなかった。役に立てるわけがなかった。

別に私がいなくても、中島先輩は戦えるし、私がいなくても支障はない。ばかみたい。有り得ない。きもちわるい妄想だ。こころのかたちそのものが緩やかに崩壊していくのを感じて、何度目になるか分からない幾粒の泪が頬を伝っていった。

全身から力が抜けて、身体の痛みだけが残った。
幸い、もう人はいないから通行の邪魔になることもない。

「っ……」

なかじませんぱい、と喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。中島先輩はここにはいないのだから、甘えるな。私はずっと甘えてばかりだ。甘ったれで、弱音ばかり吐いて、全然強くない。

「だいすきだよ……あつしくん」

大好きだったよ、敦くん。

恋がこんなにも辛くて痛くて、汚いものだなんて思いもしなかった。甘くて甘くて、煌めきだけを詰め込んだ万華鏡みたいに美しいものだと思っていた。でもそれは違って。嫉妬とか、劣等感だとかで、どんどん私は汚れていった。きれいなままの私で彼に恋することなんて、できなかった。

　コツコツ、と足音が近づいて来る。
あんまりに惨めなこの姿を誰にも見られなくて腕で目を擦る。声が降って来た。

　「迎えに来たよ(、、、、、、)」

それはたぶん、私が一番欲しかった言葉だった。
けれど、その言葉をくれた人は私が一番望んだ人ではなかった。

　「泣かないで、お嬢さん」

　ぽん、と目の前に出されたのは赤い薔薇。
つい先刻(さっき)、お兄さんが手品で出した、真っ赤な薔薇。それを暫く見つめて、理解する。

顔を上げたとき、彼が、片方の眸につけていた仮面を外した。両の頬に優しく手を這わされて、ゆっくりと顔を持ち上げられる。彼の左右の色が違う眸が私を捉えて離さない。眼鏡の奥にこんな眸を隠し持っていたなんて───ねえ、秘書さん。

「……あなたの、なまえ、」

彼の唇が動く。

「大正解！」

「ゴーゴリ。ニコライ・ゴーゴリ！」

道化師は手をこちらに向けて、いびつに笑った。