こんなに近くにいたなんて。2 ページ6
.
「お弁当!一緒に食べよう?」
.
柚子ちゃんは、
あれからずっと、私に優しくて。
.
多分、始業式の日、
声をかけて貰ってなければ、
今頃一人なんだろうな、と思うとありがたい。
.
3年B組の野球部と、
今は違うらしい、赤岩くんと。
.
皆で固まってお昼ご飯を食べると、
やっぱり江波戸くんは、
私と同じクラスだったんだ、
と再確認する。
.
自分の席の椅子に座って、
くるりと後ろを振り返るだけで、
私はこの人たちの仲間なんだ、
と思える空間が、なんだか心地いい。
.
「Aちゃん、係なんだっけ?」
.
柚子ちゃんが、
箸で卵焼きをつまみながら、声を掛ける。
.
「図書委員、去年もやったし、」
「へぇ・・・私図書室なんてテスト前しか行かないから知らなかった」
「ふふ、」
.
あぁ、そう言えば。
江波戸くんと、ぶつかったあの日も。
.
図書委員の帰りだったな、なんて、
思い出して。
.
ちら、と彼を盗み見ると、
白尾くんと、何か楽しそうに話していて。
.
笑うたびに、細められる目と。
揺れる肩とシンクロして、
ふわふわと、茶色い髪の毛も揺れる。
.
ふわふわのそれを、見ていたら。
ふ、と彼が目線を白尾くんからこちらに移して。
.
あ、と思った時には。
大きな黒目に、つかまって。
にっこり、優しい笑顔に、
ぺこん、と今度は私が頭を下げる番で。
.
「・・・お前ら、仲良いな、」
.
そんな、田茂先生の声がなければ。
きっと私は、
江波戸くんの優しい笑顔に吸い込まれてたんじゃないかって。
なんか、そんなことを思った。
.
「鈴森、食い終わったら職員室来い?」
「はい、」
.
なんか、相変わらず
つかみどころのない言葉に。
.
素直に、返事をして。
田茂先生から目線を外して、
江波戸くんのほうを見たら。
.
もう、彼はこっちを見てなくて。
.
なんだか、少し。
寂しい気持ちになった。
.
260人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ