何もなかったような顔をして、笑うなんて。2 ページ31
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「あれ、鈴森」
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小さくため息をついたときに、
聞こえてきたのは白尾くんのそれで。
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バットを持って、
全然、眠さなんて感じさせない顔で、
おはよ、と彼が言う。
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「うん、おはよ、」
「早いじゃん、」
「ん・・・目、醒めちゃって」
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そうなんだ、
自分で聞いておきながら、
興味がない、と言う素振りで、
白尾くんは坂を下りていく。
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「どこ行くの？」
「下で素振り。鈴森も行く？」
「・・・いく、」
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一人で、こんな場所にいたら。
きっと、また
ため息をつくだけだから。
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白尾くんの提案に素直に乗って、
一緒に坂を下った。
*
「そろそろ、戻るか、」
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一緒に行く、って言っても。
昨日の夜みたいに、
私は白尾くんがバットを振るのをずっと、見ているだけで。
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これと言って、することがないまま、
30分ほど経った頃、
白尾くんが伸びをして、帰るように促した。
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一緒に坂を上って、
一緒に玄関をくぐって、
一緒に食堂に向かったら。
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「あぁ！来た！！」
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柚子ちゃんが、私の事を指さして、
大きな声を上げるから。
思わず、なに？と首をかしげて言ってしまう。
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「どこ行ってたの？！朝起きたらいないんだもん！」
「あぁ、ごめ・・・白尾くんの素振り見てた、」
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素直に謝って、そう言ったら。
ぷく、と頬を彼女はふくらまして、
いぃ、って歯を見せて怒ったフリ。
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最後に、くすくす、と笑って、
お握り握るの手伝って？と付け足して、
1，2年生の輪の中に入って行った。
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「おはようございます、」
「おぉ、おはよ、」
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ぽけ、としてる田茂先生に挨拶したら、
目を合わせて挨拶してくれて。
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「おはよ、」
「うっす、」
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挨拶にならない挨拶をくれるのは、
他でもない、岡留くんだ。
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「江波戸、くんも。」
「うん、おはよう」
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″鈴森さん、″
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大きな黒目を、上目がちに動かして、
にこり、と笑った彼は、
いつもと同じ、江波戸くんだ。
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