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「お久しぶりです、A様。 会わないうちに随分とお綺麗になりましたね」
応接間入った私を、カリムは取ってつけたような言葉と笑顔でそう褒め称えた。
「お世辞はいらないわ、つい一ヶ月前に会ったばかりじゃない。 それより、こんな早くから何の用かしら?」
「ああ! 今日はジェシカ様の六歳の誕生祭について話そうと思って!」
先程の薄っぺらな笑顔とは打って代わり、快晴の空のように雲ひとつない笑顔でそう言ったカリム。
「えぇ、それはありがたいのだけれど…… 今年は国王陛下が直々に行うことになっているわ。 だから、私が何か口に出す事ではないの」
「そうか…… 毎年Aが頑張ってるから、今年も手伝えると思ったんだけどなぁ……」
残念そうに眉を下げてそう言うカリム。
その表情を見る度に、中型犬の姿がカリムの後ろに見えてくる。
「気持ちだけ貰っておくわね。
……さ、用事が済んだでしょう、早く帰って頂戴」
「えぇ!? まだ来て一時間も経ってないぞ!?」
「今日は陛下の執務を手伝う日なの。 ほら、分かったならさっさと帰って頂戴」
「わかったよ…… それじゃ、ジェシカ様の誕生祭の時にな! エスコートは任せとけ!」
そう言って応接間を出て行ったカリム。
「ジャミル」
カリムの後ろに待機していたジャミルに声を掛ける。
「! なんでしょうか、A様」
「貴方、来年からナイトレイブンカレッジに入学するんでしょう?」
私のその言葉に驚いたのか、眉をピクっと動かしたジャミル。
「カリムから聞かれましたか……」
「えぇ。 貴方と違う学校に通う事になって寂しいと嘆いていたわ。
……カリムと関わらない時間も貴方には必要でしょうし、カレッジを卒業したら今より本格的にカリムの従者として働くのでしょう? 今の内に自由を知るといいわ」
「……自由、ですか……」
「えぇ、学園生活が自由かどうかは私には分からないけれどね」
「ありがとうございます。 精々数年の仮初の自由を満喫させていただきますよ」
嫌味ったらしくそう言ったジャミルは、私に礼をして応接間から出て行った。
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