if... 2013 〜広島V2記念作品〜 6

35 makino side ページ35

Aから事情を聞いても、全く意味がわからんかった。


青ちゃんに好きな人なんてできるわけない。


どんなに連絡をとってなくても分かる。


青ちゃんがA以外の女を好きになれるわけない。


槙野｢そもそも、女の友達さえおらんじゃろ……｣


思わず声に出る。


良太｢Aのこと突き放そうとしてそう言ったんじゃない？｣


A｢みんなそう言うんだけど……だとしても、そこまでして私のこと避けたいのは間違えないもん｣


遊び慣れてそうな千葉ちゃんより、ずっとAを見てきた青ちゃんの方がマシ。


このままだと千葉ちゃんにAを持っていかれるのは時間の問題だと察した。


オレンジジュースが進まんAの代わりに、グラスを手前に引き寄せる。


陽介｢大丈夫。俺らが言うんやから間違えないよ｣


時計に目をやってオレンジジュースを飲み干した。


槙野｢そろそろ……｣


A｢チーちゃんだ！｣


立ち上がったAが嬉しそうに入口を見る。


良太｢え？｣


陽介｢ほんまや。偶然？｣


まだ気付いてない千葉ちゃんに、Aがとびきり甘えた声で呼びかける。


A｢チーちゃんっ｣


千葉｢うわ、こんなとこでサボり集団みっけ！(笑)｣


良太｢……あ、うん｣


陽介｢自分もやろ？｣


笑顔を作る2人が動揺する気持ちはよく理解できた。


あんなに甘えた声は、俺たちやヨコさん、ユースの奴ら以外には使わん。


Aは俺が空にしたグラスをトレーに乗せて下げながら千葉ちゃんの席を自分の隣に作った。


千葉｢曜一朗の囲まれ具合がヤバイよ｣


A｢今テレビ出たりして大人気だもんね｣


千葉｢俺はAにガードしてもらおーっと｣


すっかりはしゃぐ2人を横目に、空のカップを手持ち無沙汰と持て余す。


どこに目をやって誰の声を聞けばいいのか分からんかった。


街の風景も、チームのメンバーも、Aの様子も、帰ってくる度に確実に変わる。


そんなこと分かっていたはずなのに、この未練がましい気持ちは何なんだろう。


優勝できなかった悔しさをAと共有できないことがこんなに辛いなんて知らなかった。


どんなミスもどんな後悔も、Aが同じ気持ちで半分請け負ってくれていたあの頃……


今思うと、あんなに頼もしい存在はなかった。


陽介｢……もう、いろいろ変わったんやね｣


隣でポツリと呟いた陽介の言葉は、2人の賑やかな会話にかき消された。

36→←34 ao side

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す