終天に巡り逢うⅣ (ページ39)

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番外編５ページ39

一瞬それに怯んだAに手を伸ばせば、咄嗟に彼女は刀を放して距離を置いた。
窺うようにこちらを見つめてくる。

「で？」

『…』

「まさか、これで終わりか？」

挑発するようにそう言えば、Aはほんの少し、僅かに眉を吊り上げた。
それを見て内心笑う。
こうも分かりやすい奴だったのか。それとも心を許しているから表に出ているのか。まぁ恐らく両方だろう。

『…、』

ダンッ、と強く地面を蹴り付けたAが俺に腕を振り翳す。
なるほど体術で来たか。
そう考えながらそれを受け流す。すると間髪入れずにAは身体を反転させると裏拳をかましてきた。それをかわす。

「いや裏拳って…あいつマジじゃん…こっえー…」

ぽつりと呟いたルクの言葉に同意しかない。
本気で俺と戦っている。
Aは姿勢を低くすると今度は顎に向けて掌底を突いてきた。

「…」

避ける。

「！」

不意にAの手に見えたそれは。
緩く彼女の口角が、好戦的に上がる。

『雷帝招来。急急如律令』

バリバリバリッ、と稲妻が奔る。
咄嗟に離れたが、少し感電したのが僅かに腕が痺れている。

「…呪術か…だが普通のものではないな」

『万が一の為に作ってたんです』

「恐ろしい女だ」

それは本音だ。
吸血鬼を感電される呪術など、かつては有り得なかった。

『頑張って研究してましたからねぇ』

とAは皮肉げに笑いながらも攻撃の手を休めない。
次々と繰り出される体術。
こうして彼女が戦っているところは初めて見たが、動きに無駄がない。恐らく頭の中で何通りもの筋道を立てながら戦っている。それは一朝一夕で出来ることではない。つまり、それだけの場数を踏んで来ているのだ。涼しい顔をして、やっていることは並外れている。

『よっ』

懐から取り出したクナイ。それを俺の心臓目掛けて突いてくる。
…やはり俺のことを本気で獲りに来てるな。無論やられるはずもないが、正直面白くない。

「…」

それにしても、彼女のそれは戦いというよりも暗殺向きだ。
静かに、無駄なく、躊躇いなく、急所を的確に狙い、定める。
そういう生き方だったのだ。そういう生き方しか出来なかったのだろう。
一切の感情を消した空虚な瞳が俺を見据えていて。
それは酷く美しいのに、空虚で。酷く不愉快で。

「ああ…ダメだな」

『！』

Aが俺から離れようとしたその瞬間、彼女の手首を掴んで足払いをかけると地面に押し倒す。
そのまま動けないよう、組み伏せた。