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「この部屋をおまえに与える」
一つの部屋のドアを開ける。
『……あれ。なんか部屋近くないですか？』
Aが横から視線をこの部屋へと向け、言ったそれに頷く。
「遠くに部屋があれば、人間のおまえでは呼び出しても来るのが遅いだろう」
『ああ…だからすぐ側の部屋にしたと』
その部屋は私の私室やら書斎やらからすぐ側の場所にある。
「不満でもあるのか」
『いえまさか。ただ驚いたというかなんというか…ウルド様がいいなら私は別に何も言いませんよ』
淡々と言ったAを見下ろしてから、部屋に入っていく。中の明かりを点ければ、そこには生活するのに必要なものが一式揃っていた。彼女が風呂に入っている間に部下に用意させていたのだ。
『広いですね』
「必要最低限のものは揃えてある。まだ必要なものがあれば言え」
『…ありがとうございます』
私を見上げるアメジストの瞳が、その真意を探るように僅かに細められる。
だが読み取れなかったのか、すぐに視線を外した。
「おー。やったなA。ふかふかのベッドで寝られるぞ」
Aの後ろからルクが顔を覗かせ、茶化すように彼女に言う。
『いぇーい』
「棒読みにも程があるだろ」
全く嬉しそうではないAを楽しそうに小突くルクを彼女は睥睨する。
『やめてくださいよ。力加減って知ってます？』
「してるだろ？」
『もうちょっとしてくださいよ』
「おまえならこれくらい大丈夫だろ」
『なんですかその謎の信頼感』
ルクが時々会うと言っていたが、随分と打ち解けているように見受けられる。彼の声もどこか弾んでいた。
「頑張って捨てられないようにしろよ？」
『そうっすね』
投げやりな返事にルクはまた笑う。
「おまえはもうこのまま休んで構わない」
どうせ今はやる事もない。
そう思い、Aに告げればゆっくりと頷いた。
『分かりました』
「明日は適当に顔を出せ。一応、私の屋敷の者にはおまえの事は伝えておくが、暫くこの階より下へは不用意に降りるな」
『…分かりました』
Aを一瞥すると、踵を返して部屋を出て行く私の背中に彼女の視線が突き刺さる。
それを無視して歩いて出て行くと、後ろでルクが扉を閉めた。
「どう出ますかねー？」
「さぁな」
どう出たとしても所詮は非力な人間の小娘だ。呪術も使えるとはいえ、脅威ではない。捻じ伏せることなど容易い。
一度立ち止まり彼女の部屋の方を見てから、自分の書斎へと歩みを進めた。
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作者名：レイ | 作成日時：2021年5月2日 22時
