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『…』

「これで終わりだ!!」


Aの背後から折り畳みのナイフか何かを振り翳す男。刺さる…と言ったところで、男がピタリと動きを止めた。


「が…ぁ…!?」

「どうしたの!どうして刺さないの!?」

『無駄だよ』


パチン、と指を鳴らすA。それと同時に男が倒れ込む。


『幻術に幻術で返した。負荷は大きいだろうねぇ』

「ば、馬鹿な…」

「彼の幻術の腕は…!」

『はは。そいつの幻術はおままごとだよ。そんなの、実戦じゃ何の役にも立たないだろ?おまえら、実戦に出たことがあるか?他人を殺したことがあるか?』

「それはっ…!」

『ないだろ?だからこんな生温い実力で私に挑んだ。おまえらは、自分と私の間にある実力の差を判断しきれなった。だからいま、そこで這いつくばってんだよ』


と、冷えた瞳を見下ろすA。


「くっ」

『さーてー』


男のナイフを奪い取り、クルクルと回す。


『こいつ、殺してもいいかな?』

「なっ」

『一人くらい死んでも構わないだろ。他の人間がいるし』


ナイフを振り上げる。下ろす。
その瞬間、


「やめて!!」


ピタリと、男の眉間すれすれで止まるナイフ。


「こ、こんなことして…吸血鬼は黙ってないわよ!」

『はは。なーに言ってんの?そっちが仕掛けて来たんだろ?今更怖気付くなよ』


心底馬鹿にしたように笑うA。


『それに、止められないってことは許容してるって事だ。違うか?』


その言葉に、人間たちの顔に恐怖が宿る。


『弱い奴が淘汰される。これは世の摂理だ。残念ながらね』

「あ…」

『ああでも、そうだな。私は優しいから、君らが土下座して謝るなら、考えてあげるよ?』


愉しそうに、彼女は嗤う。


「なっ!?一瀬なんかに土下座なんてするわけ…っ」

『あらら、ざんねーん。じゃあコイツは死んじゃうなぁ。可哀想に』


ぷつり、と薄皮一枚を斬るとそこから血が流れる。斬られている男は間近に迫る恐怖に怯えている。


「や、やめて…!!」

『じゃあどすればいいんだろう?』


屈辱に女が顔を歪める。


『でもなー。今後また喧嘩売られても困るんだよねぇ。なら、見せしめが必要かな?柊のように』

「な…」

『常套手段だろ?知ってる?人を従わせる一番手っ取り早い方法。それは、恐怖だよ』


歌うように、すらすらと言葉を続けるA。


『人間相手なら最も有効な手段だ。なんせ私たちには感情と、生がある。それらがある限り、私たちは簡単に弱者に成り下がる』

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作者名:レイ | 作成日時:2021年5月2日 22時

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