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「ウルド様」
部屋のドアを開けて現れる部下に視線を向ける。
「何やら人間どもが揉めているようです。その中にはウルド様のお気に入りもいまして…」
「…なに?」
Aが?彼女が揉め事を起こすような性格には思えない。何かあったのか?なんだか嫌な予感がする。
椅子から立ち上がり、部屋を出ると走って地上まで向かう。
広場のようなそこには、Aの後ろ姿が見えた。
「A…」
「親殺しの忌み子め!!」
どうした、と声を掛けようとしてやめる。
「母親を殺して、父親までも殺した殺戮者のくせに!」
『…』
Aは何も言わない。彼女が親を殺したとはどういうことだ。
「一瀬のネズミ如きが柊家に楯突くからだ!!」
「所詮卑しい家柄の分際で!」
「おまえなど、生きる価値もないわ!」
「親を手にかけた感想はどうだ?俺たちには分からないな!」
ぎゃいぎゃい騒ぐ人間どもに黙っていた彼女が口を開く。
『言いたいことはそれだけか』
酷く冷たい声。今まで聞いたことがない、それ。
『ああ、そうだよ。母を殺した。父を殺した。二人とも、私が』
淡々と、温度のない声音。
『私が殺した』
顔は見えない。
だが、何故か彼女は泣いているような気がした。
『生まれた時に母を殺し、そして柊の命令で父を殺した。…だから、なんだ?おまえらに関係あるのか?』
「っ」
『ああ…おまえらは柊に忠誠を誓った奴らだったな。じゃあ、ちょっとくらい、報復に痛めつけてもいいか。ここに、柊はいないんだから』
「なっ」
『おまえらの大好きな柊は、いま、おまえらを守ってくれるか?いや、そもそもおまえらの存在を柊は認識しているのか?所詮捨て駒なのは、おまえらも同じだよ』
「こっちは6人いるんだぞ!」
『あはは。だから何だよ?愚図が何人いたところで、何も問題ないだろ?弱いんだから』
心底見下しているような声音、口調。いつもの彼女ではない。
『ああ、でも間違って殺したらどうしよう。怒られるのかな?』
「見くびるな!!」
男がAに殴りかかる。その腕を少し動くだけで避けると、鳩尾に膝を食い込ませた。そしてそいつの腕を掴み取り、折る。
「がぁぁぁあっ!?」
『は。言ってたわりにはよえーなぁ』
「このっ!」
「図に乗るな下賤な一瀬!!」
他の5人が躍り掛かる。しかし、一人、また一人と簡単にAは倒していく。
しかしふと違和感に気付く。これは、幻術だ。彼女は気付いていないのか。
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作者名:レイ | 作成日時:2021年5月2日 22時