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「ウルド様、あいつが気に入りました？」
応接間に移動し、中のソファーに腰掛けるとルクが私に尋ねてくる。
それに無言で返していると、彼は楽しげに笑った。
「あいつ、面白いですもんね」
「別に気に入ったわけじゃない」
「へぇ？そうですか」
ただ、何となく、路地裏に置いておくには勿体ないと思っただけ。
「あいつ、呪術家出身なだけあって頭もいいし、武術も出来る。俺たち吸血鬼にもまったく怯まないのが面白いですよねぇ」
「最初からああだったのか？」
「そうですね。今日みたいに返り討ちにしてたところに遭遇して、話しかけてみたんですよ。そしたら意外と面白い人間だったんでちょくちょく会ってたんです。なんか持ってんのかって思うくらい、大抵襲われてますね、アイツ」
「何故だ」
「Aって、なーんか襲われやすいみたいで。なんだろ、加虐心とか支配欲が唆られるんですかね？まぁ本人がその辺の奴等より強いお陰で事なきを得てるんですけど」
Aの姿を思い起こす。
艶やかな黒髪に、少々垂れ目がちながらも大きなアメジストの瞳。それは強い意志を感じるものだった。吸血鬼にはもう出来ない眼差し。
そしてやや小柄ながら、丸みを帯びた身体つき。
一見穏やかそうな、悪く言えば隙が有りそうな見た目で言えば、確かに襲われやすいのかもしれない。
先程は小汚い格好だったが、それでもまぁ美しい見た目だったし、なんというか…確かに支配欲のようなものが湧き上がるのも肯ける。
と、そこで扉がノックされた。
「ウルド様。ウルド様の人間をお連れしました」
「ご苦労」
「おい、入れ」
部下の後ろにいた小柄な影が躊躇いがちに動けば、ふわりと黒髪が靡く。
へぇ、とルクが声を漏らした。
「では私はこれで」
部下が下がり、うろうろと視線を彷徨わせるAをジッと見る。
先程よりも更に艶やかになった黒髪は整えられ、少々汚れていた肌も綺麗になり、元々の素材の良さがはっきりした。
生成りのワンピースに身を包んだAは所在なさげにそわそわとしている。
なるほど、分かってはいたが磨けば更に美しい娘だった。
「へぇ。おまえ、思ってたより美人だったな」
『さっきの服じゃダメですか…滅茶苦茶しんどい』
「喜ばねーの？綺麗な身なりなのに」
『ワンピースじゃなければ嬉しいんですけど』
そわそわしているAにルクは首を傾げる。
『日本でも、ワンピースなんて殆ど着なくて。だって戦いにくいじゃないですか』
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作者名：レイ | 作成日時：2021年5月2日 22時
