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『入ってもよろしいでしょうか、ウルド様』
「ああ、入れ」
コンコン、とドアをノックして入室の許可を得てから開ける。そこにはウルド様の他にもう一人吸血鬼がいた。
「…あらウルド。貴方、人間を飼っているの？」
桃色のたっぷりとした長い髪に、つり目がちな瞳の少女ー女王クルル・ツェペシだ。生で見ると迫力が違うな。超絶美少女。可愛いの次元が違う。異次元。
と考えながら、トレーに血の入ったボトルとワイングラスを乗せて中に入る。
「数ヶ月程前からな」
「へぇ、そうなの」
『失礼します』
ワイングラスをテーブルの上に置き、血を注ぐ。その最中ずっと見られていた。
あー、見ないでー。溢しちゃうから。私チキンなんだよー。
「ウルドにそんな趣味があったなんて。どういう心境の変化かしら」
「別に。暇つぶしだ」
「ふぅん。暇つぶし、ねぇ…ああ、もしかしてこの子の為に日本刀が欲しいって言ったのかしら？ずいぶんと可愛がってるみたい」
あ、ウルド様の機嫌が悪くなった。巻き込まれないようにさっさと退散しよう。
「ねぇ、貴女」
『はい』
「名前は？」
『…えーと…』
言ってもいいのだろうか。
ちらりとウルド様を見ると興味なさげに血を飲んでいた。
よし、言う。
『一瀬Aと申します』
「ああ、やっぱり日本人なのね。何故ロシアにいるの？」
『えーっと。こちらの学校に留学してたのですが、途中で世界が滅びまして。そのままこちらで飼われることになりまして、はい』
「あらそう。災難ね。日本に戻りたいと思う？」
『えーっと。そうですね…まぁ、機会があれば』
「でも貴女が日本に行ったところですぐに死ぬわね。か弱い人間だもの」
『ははは』
ディスられた。
優雅にワイングラスを傾ける少女は笑う。
『ですが、兄には会いたいと思います』
それに、ぴくりと反応した。
可愛いねぇ。…なんて言ったら殺されるけど。
「兄弟がいるの？」
『はい』
そう。
と言って口を閉ざした少女に首を傾けてから、表情や仕草を観察する。
「A」
『はい』
「もう下がれ」
『分かりました』
するとそこでウルド様にそう命令されてしまう。
無駄話をするなと言うことだろう。はい、すみませんでした。怒られる前に退散しよう。また血を吸われるのは嫌だし。気を失うまで飲まれるし。
一礼すると部屋のドアを開けて閉じる間際、少女と視線が合う。
『…は、』
その瞳はまるで、大事な人に焦がれているようだった。
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作者名：レイ | 作成日時：2021年5月2日 22時
