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テキパキとした手つきで与えた仕事をこなしていくAを見やる。
彼女を使用人にしてから約3ヶ月が経った。見せても支障の無い適当な仕事を与えると、Aはそれを完璧にこなしてみせる。最初の頃はぎこちなかったが、それでも数日で自分のものにしてみせた。
こちらが全てを言わずとも意思を汲み取ってくれる辺り、気遣いやら頭の回転の速さもそうだが、次の私の行動に何が必要かを読み取って動いているのだ。
こういう所は人間の方が得意だろう。それとも彼女が元々得意なのかもしれないが、正直そこはやり易いと思う。


「…」


あの日見たAの面影は無い。どこかへ消え去ってしまいたいような…そんな儚げな表情は今の彼女には見られない。

何故、あんな顔をしていたのだろうか。

…確か、日本の家族には会いたいと言っていたな。
だからか?家族が恋しくなったのだろうか。世界が崩壊してからもう5年が経った。あの年頃の娘ならまだ親兄弟と一緒にいるはずだったのだ。だから彼女もそうなのか。
…その感情は、私にはもう理解出来ないものだ。


『…なんですか?血ですか?』

「いや。なんでもない」


私の視線に気付いたAが問うてきたが、言葉を濁す。
それに彼女は気にした素振りもなく頷くと、再び仕事に意識を戻した。
すると、はらりと肩から艶やかな髪が零れ落ち、煩わしそうにそれを後ろにやっている。


「…」


ふむ。
と考える。
あれは良く働く。私が想像していたよりも遥かに真面目に、丁寧に、そしてミスなく取り組んでいた。その褒美を与えてやってもいいかもしれない。


『…!どちらへ?』

「少し出てくる。おまえはこのまま仕事を続けていろ」

『分かりました』


立ち上がった私に倣うように立ち上がり、私のコートを手に取ると広げてくる。それに腕を通して身なりを整えるとAを見下ろす。
無造作に流れる黒髪に瞳を細めてゆっくりと手を伸ばせば、彼女は警戒するように身体を硬くした。


『っ!?』


思った通り柔らかな指通りだ。柔らかいが故に恐らく絡みやすい髪質だろう。それに少し傷んでいるな。これは惜しい。
少し指先で弄ってから放す。


「誰か来たら席を外しているから後日にしろと伝えておけ」

『…はい。そのように』


コクリと頷いたAを一瞥し、踵を返すと部屋を出て行った。


『……なんだあれ…びっくりしたー…』


廊下を歩いていると茫然とした声を耳が拾い、一度立ち止まりかけたが目的の為に再び足を進めた。

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作者名:レイ | 作成日時:2021年5月2日 22時

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