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さあさあと雨が降り注ぐ。
会議が終わり、聖ワシリイ聖堂から自身の屋敷へ向かおうと足早に歩いていると見つけたソレ。
雨越しにでも、その姿は私の眼に雨の雫を通してハッキリと映り込む。
「…」
ベンチに座りながら微動だにすることもなく、ぼんやりとした眼差しで虚空を見つめ、雨に濡れている人間の女。
それに、ぐ、と眉根を寄せる。
「ちっ」
と舌打ちしてからその女の元へと跳び、目の前に立つと見下ろす。
「何をしている」
ぼんやりと虚ろな眼差しをしていたアメジストの瞳に漸く光が戻り、私を見据えた。
『あれぇ。ウルド様じゃないですか。会議は終わったんですか？』
「ずっとここに居たのか」
『あー。そうですね』
いつから雨が降っているのかは知らないが、２時間近くは会議をしていたはずだ。なのにコイツはずっとこのベンチに座っていたと言う。
「雨が降っているのにか」
『雨に打たれるのは好きなので』
ヘラリと笑った彼女の腕を掴めば、私でも分かるくらいに冷え切っていた。再び舌打ちすると持ち上げて肩に担ぐ。
『っ！何して…』
「煩い。黙れ」
地面を蹴り付け、屋敷へと駆ける。
背中から、あぁぁぁぁぁぁ…速いぃぃぃ……！！とかいう声が聞こえたが無視して走り、屋敷のドアを開けると部下の吸血鬼に湯舟を沸かすよう指示を出してそのまま自分の部屋に行き、中にあるタオル類を掴み取る。
部屋のカウチに乱雑にAを落とすと、頭の上にタオルを放り投げた。
『？？？』
意味が分かっていなさそうな彼女を冷たく見下ろしながら口を開く。
「拭いておけ」
『は？…あ、…ありがとうございます』
漸く理解したAが頭の上で散らばったタオルを手に取り雫を拭こうとして…そして止める。
『あの…ウルド様も濡れてますが…』
「私は濡れても何の支障も出ない。だがおまえは違うだろう」
『！』
驚いたように瞳を見開いてから、所在なさげに視線を彷徨わせる。
『ありがとう、ございます…』
胸元にタオルを握った手を置きながら、小さな声でどこか戸惑うように、恥ずかしそうにそう言う。
「風呂を沸かしてある。入ってこい」
『分かりました』
「間違っても風邪を引くなよ」
『はは。引きませんよ』
小さく笑ったAは立ち上がり、軽く頭を下げて部屋から出て行こうとするが、立ち止まって此方を振り返る。
『…ありがとうございました、ウルド様』
「…」
そう、初めて見た笑みを向けて出て行った。
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作者名：レイ | 作成日時：2021年5月2日 22時
