終天に巡り逢う (ページ11)

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ウルド様に連れて来られた劇場には、グランドピアノが設置されていた。

『…』

いや待って。この舞台ど真ん中で弾けって？逆に恥ずかしいんですけど。
思わず死んだような顔でそこを見つめる。

「やれるか」

『…はい』

虚な笑みで頷いた私を怪訝そうな表情で見下ろしてからウルド様はさっさと席に着く。

『…はぁ』

と、小さく息を吐いてからピアノの椅子に座ると、音を確認するように少し弾いてみる。
…うん、大丈夫そうだな。

『…』

息を吸う。そして吐き出すと同時に鍵盤を叩いていく。
無心で弾いていけば、数年ぶりでも平気そうだった。指を止めることなく鍵盤の上を流れていくように音を弾き出していく。
なんだか少し、楽しくなってきた。

『♪』

思わず鼻唄を歌いながら弾いていく。
ウルド様？知らない。終わるまでは無視の方向性で良いだろう。彼のお眼鏡に適わなかったら勝手に帰るだろうし。
とりあえず今は、楽しむことにした。

ーポーン

と最後の音を鳴らして演奏を止める。
ふむ、と一つ頷いてからウルド様が座っている方を見れば目蓋を下ろしながら頬杖をついている。

…脚なげぇな。

なんて、組まれている脚を眺めながら思う。
褐色肌の吸血鬼は珍しいと思うのだが、なんだろう…どこか神秘的なものを感じるな。本人が滅茶苦茶美人なイケメンだしな。あれだ。ギリシャ時代の服とか凄く似合いそう。無論、王族の服である。モテるだろうな。

「…」

などと考えていたらウルド様の目蓋がゆっくりと上がり、透き通った真紅の瞳が現れる。
形の良い唇が動く。

「…悪くない」

『ありがとうございます』

あー良かった。これで下手くそとか言われたら、もう恥ずかしくて死ねるよね。
内心安堵しながらピアノから離れて、舞台から飛び降りるとウルド様の側に寄っていく。

「他も弾けるのか」

『多分弾けると思います。ああでも、私は独学なので自作のものが多いです』

「今のもか」

『はい』

そうか、と言って伏し目がちに目蓋を下ろし沈黙するウルド様を見つめる。

えっ。どうしたらいいんですか？

視線を色んな所に持っていきながら、彼の次の行動を待つ。
ぼやーっとしていると動く気配がし、視線を戻せば立ち上がるところだった。一歩足を引いてそれを見守る。

「また来るぞ」

『あ、練習しとけってことですね。分かりました』

確かにもう少し腕を戻しておきたい。ふむ。練習しとこう。
そう思い、歩き出したウルド様を追いかけた。